今まで香港は銀行口座を開設する場所としては"世界で最も便利な地域の1つ"という共通認識がありました。事実、審査基準も緩やかなものでしたが、ある要因からこうした認識は過去のものとなってしまい、現在では法人及び個人の口座開設が非常に困難になっています。
では、このような状況になってしまったのは一体何が原因なのでしょうか?
結論から申し上げると、銀行は、『KYC』(Know Your Customer=顧客確認法)及び『FATCA』(Foreign Account Tax Compliance Act=外国口座税法順守法)という2つの法令により口座開設手続きとその審査基準を一層厳しいものにするよう、当局から指示されているからなのです。
<KYC>
『KYC』とはとりわけ金融機関が口座所有者及び口座に対して権限を与えているいかなる人間の身元、経歴、素性を理解することを要求をする法的な規定書類のことです。
その基準となる条件とは、ビジネスの性質、会社の主要市場、個人の出生地、居住地、国籍、年齢、経験、語学能力となっており、また必要に応じてそれ以上の調査(デューデリジェンス)に踏み込む事も含まれております。
銀行側はBVI、 サモア、セーシェル等のオフショア会社の口座を開設することに対しても同様の基準で審査をするものと捉えており、結果としてより一層複雑なプロセスとなってしまったのです。
事実として、HSBCを筆頭として外国企業や外国人の口座開設依頼を拒否するケースが続出しております。特に、従来から資金の"隠れ蓑"的な意味合いが強いと見られるBVI法人設立案件や、また政治的に危険度が高いと見られる国々からきている個人からの案件では、"拒絶する目的"で延々と質問を繰り返す事例なども出て来ているとの事です。
<FATCA>
『FATCA』は今年7月に有効になった法律で、これは非米国系金融機関に対して、米国人が所有している口座についての情報開示を米国内国歳入庁(IRS)が求めているものです。こうしたIRSの要求に対して従わない非米国系金融機関の場合、IRSは米国国内源泉の利息・配当及び譲渡対価に対して30%の源泉徴収税を課すという方針を固めています。
非米国系金融機関にとってこの『FATCA』とは複雑で困難な法令順守の負担を強いられるに等しく、またこれにかかわるコストも甚大なものです。実際にHSBCなどは社内コンプライアンス部隊の人員を2万人超まで準備したのは『FATCA』に対応する為と言われている程であり、これに倣うと言う事は、即ち新規或いは既存の客が"米国人である"ということを(銀行側は)究明しなくてはならない責務を負うことにもなります。一方、顧客側にとっては、逆に米国人であるかないかと言う事を証明することを求められる訳です。
この法規制の余波によって、非米国系金融機関は今後新規の米国客を取り込む事を断念せざるを得なくなったり、また現在では既存の米国顧客口座についてすらも閉鎖をするかしないかの選択肢を検討せざるを得ないところまで来ました。更にその影響は米国人だけに止まらず、非米国人である我々日本人などにとっても、銀行口座を開設する為に様々な質問への返答する事や、今まででは考えられなかった程詳細且つ広範に渡る書類•資料(契約書、インボイス、日本の銀行ステートメントなど)の提出を求めらる事態まで発展して来ております。
更に悪い事には、新規開設希望者のみならず、今後は既に口座をもっている会社や個人顧客に対しても、こうした『KYC』と『FATCA』に関わる書類の提出を銀行から求められることになるとの事ですからひと昔前の状況とは隔世の感が出てしまうほどの変わりようですね。
以上、法令順守の期間と指定されているこの先2年間は、非米国系金融機関がこの法令対策に追われる期間でもある為、マーケットは口座閉鎖のケースが急激に増えるであろうと予想されています。
お客様にとってもそうした背景を今まで以上に真剣に捉える必要があると言う事を、今一度ご理解下さい。