"出国税"とは、その正式名称として「国外転出時課税制度」のことを言います。この税制が規定する内容と言うのは1億円以上の株式等を有する方々が、例えば仕事や移住などと言う目的で海外に転出をする際に国内で保有している金融資産の含み益に対して所得税の課税を行うと言うものです。
では、今回ご紹介する新しい「出国税」(=行政側で検討中案件)と言うのはどのようなものなのでしょうか?これは、上述のような国内富裕層を標的にしたものではなく、訪日する外国人を対象としており、航空運賃等に税額を乗せることで徴収を行うと言うものです。既に導入している欧州各国(例:英国、フランス、ドイツなど)からの課税額を類推すると恐らく日本では1,000円~3,000円程度の水準になるのではないかと噂されています。
では何故こうした事が検討のテーブルに上がることになったのでしょうか?
その理由は、先ず第1に急激な訪日外国人の増加が背景としてあります。過去5年もの間、日本を訪れる外国人の数は飛躍的に多くなりました。数字として約3倍まで膨れ上がったと言われる訪日外国人客数の為、国内インフラ整備の遅れが様々なところで露呈していると言います。
例えば、京都では観光客の増加による道路の混雑(歩いて5分のところをバスで40分かかるなど)や路線バスに地元民を含めて乗車できない事態が生じていたり、鎌倉では電車に乗るために2時間待ちの状態等々...こうした事例は枚挙にいとまがありません。
2つ目は(外国人に)人気のある観光地の中には充分な財源がなく、観光施設の補修が全くできていないケースも少なからずあることや、3つ目は来日外国人の多くが大都市に集中してしまい、地方の観光地にはあまりいないことも挙げられます。
また4つ目の理由としては観光情報の入手の問題です。日本では依然として無料Wi Fiの整備が少なく、広域の地図の入手が難しいといった指摘が常々あり、こうした事から、観光庁としては独自の財源を確保することで訪問する側の期待とそれを迎える側の(設備を筆頭とした)提供サービスとの"乖離"を是正したい考えであるようです。(ちなみに余談ではありますが、日経新聞がこの報道を行った後、訪日客の多くを占める韓国や中国の新聞などのマスコミが、日本の出国税の導入に反対する記事を掲載しました)。
ではこの新しい出国税を導入した場合のインパクトと言うのはどの位のものとして想定されているでしょうか?
訪日外国人消費動向調査によると、来日する外国人一人当たりの消費額は平均14万円程度とされ、仮に1,000円程度の出国税を課税したとしても、大きな影響はないと考えられます。もっとも、来日外国人の一人当たり消費額を国別に見て行くと、欧米からの旅行客は20万円を超えており、アジアからの旅行客もおおむね10万円超となっている為、予算の少ない側(アジア)から見ると、それが例え1,000円程度だったとしても、心象的にはそれなりの"負荷"を感じ取られる形となるかも知れません。
また、この一人当たり消費額の違いと言うのは、主に旅行日数から来る要素があり、一人一泊当たりの消費額については何れの国も22千円から24千円程度(中には30千円といった国もありますが)と言う水準で余り変わらないと言う側面もある為、何れの国が"ケチ"であるということでは必ずしも無いようです。
観光庁は『大目標』として、東京オリンピックが開催される2020年に外国人旅行者数を4,000万人達成と言うゴールを掲げています。この大目標が、現在直面している国内インフラの整備遅れを原因としてボトルネックになることだけは何としても避けたいと言う考えが根底にあるのは想像に難くありません。
従って今ここで、このインフラ整備問題に対する施策を講ずると言うことは(多少、来日観光客の伸びが現時点で下がったとしても)結果的には"最小の痛みで最大の果実を取る"と言う選択肢になって来るのです。
新出国税の導入...、果たしてどうなるでしょうか?