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8.25%まで下がる法人税、オフショア市場の「姿勢」を示した香港
更新日:2017年10月13日
2017年10月11日、今年7月1日から新たに行政長官に就任した女性議員、林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が今後の香港の行く末を占うような、大胆な税制を発表しました。香港はシンガポール等と並び、アジア近隣諸国はもとより、国際的な金融センターの1つとなって久しいですが、そこまで香港を押し上げたファクター(要因)というのは様々なものがございました。
例えば外資を積極的に受け入れる為の緩やかな市場環境の構築や確りとした法整備であったり、多言語を操り国際色豊かな人材の存在、そして何よりも今回のお話のテーマであるアジア随一の低税率(法人税→16.5%、所得税→最大17%)等が挙げられますが、今回の発表が市場からむしろ一種の"驚き"を持って迎えられた要因と言うのは、これから述べる、ある"イレギュラー"な動きを香港政府が行ったと言うことです。
それは何かと申しますと、まず(歴史的に振り返ると)この香港という地域は、何かこうした大きな施政を発表する際は、その決定までの経緯として必ずそれと似たことを先に行っている他国の真似をするのが今までの通例だった訳ですが(例:財務統括拠点優遇税制→シンガポールの"コピー"と揶揄される等)、今回はそうした過去のパターンを打ち破り、敢えて"先陣を切る"形で実施を宣言すると言う運びとなったことです。
では、そもそも低税率で鳴らすこの香港が、何故より一層突っ込んだアクションを行う必要があったのでしょうか?
この決定の背景と言うのは、恐らく他のオンショア大国たち、例えばイギリスやアメリカと言った非中華圏の国々が(国外に流出した)自国資産の還流を促す為に法人税率などにメスを入れ、結果として大幅な減税を行う旨を宣言したことによって、タックスヘイブンであり且つ金融センターを自負する香港の基準税率(法人税16.5%など)そのものの優位性が"脅かされる"と言う形になってしまったからに他なりません。
勿論、大局的には香港のバックにいる中国政府の意向などもあったことでしょう。"親中派"と自他共に認める林鄭月娥(キャリー・ラム)氏がそれを行わない理由はありません。
また同時にこの軽減税率は大企業の負担を足元から和らげるだけでなく、中小企業の多くを救済する手段でもある為、より一層の経済効果と新規投資を呼び込める可能性を含んでおり、経済の活性化を目指す香港にとっては導入直後の若干の税収減を見越したとしても、長い目で見れば"結果オーライ"となるのは明らかです。
更にライバル視されるシンガポール等に先駆けてこうしたことを行うことは、内外に対して香港の「姿勢」と言うものをより積極的アピールすることも出来ます。
実際、過去20年以上続いている財政黒字を誇る香港は既に1兆香港ドルもの「準備金」がそのポケットにあると考えられており、これを"社会還元"と言う大義名分においてその一部を市場に対して財政支出を行うことは痛くも痒くもないことでしょう。
当然、香港がこのような減税措置を行うと言うことは、シンガポールなどもこのまま指を咥えて黙っているとはあり得ず、今後、世界的には益々低税率化の流れに拍車がかかることは必至です。
吉と出るか、凶と出るか?
オフショア市場の「姿勢」を示すことになった香港。
マーケットに投じた"余波"が、今後どれほど大きくなって行くのか?
まさに注目に値する、大きな「事件」とすら言えることでしょう。