毎年、税制の変更ラインが発表となるのは年の瀬前後となる訳ですが、今年はその準備の最中に予期せぬ衆議院選挙が割り込む形となった為、庁内では多少の混乱の中で作業が進められているようです。こうした状況下ではありますが、それでも現時点で挙がって来ているいくつかの有力改正項目があり、これらについての内容とその所見をご案内させて頂きます。
◎主な税制改正等の項目
1)出国税
出国税については適用時期と税金の額について調整が進められているようです。現在のところ、適用時期は2019年4月で、税額は1回当たり1000円とし、航空運賃に上乗せして徴収することを目指しているとのことです。
所見:
出国税について現時点では、日本人を含めた出国者は約4000万人であり、当局が期待する税収額は大よそ400億円を見込んでいると考えられています。この税収は、観光庁の事務経費のほか、観光のための事業対象に使用されるとのことですが観光庁が独自の財源と権益を確保するためのものでは無いかと見られる向きもあるのも事実です。
もっとも、観光事業への投資が効果的なものであれば良いと言う面と、それが有名な観光地だけに投資されるのであれば、ここに地域的なギャップが広がる可能性もあり、グランドデザインをどうするかについてはまだまだ議論の余地があるようです。
2)消費税増税及び軽減税率の導入
すでに消費税率については、10%にすること、食料品について軽減税率を適用することなどが決定していますが、現行の8%から10%への引き上げに時期についてはさらに先延ばしするのではないか?との推測もありました。
しかしながら安倍総理は、今回の選挙においても2019年10月実施を改めて確約している事と、その活動主体となる国税庁では、すでに軽減税率に関する説明会を全国各地で実施しており、財務省としては2019年10月の実施を既定路線としている感じです。
所見:
消費税の増税等については今回の衆議院選挙では与党が大勝したことを受け、今のところ既定路線となるのは否めませんが、一方、2019年に行われる参議院選挙の動向・結果如何によってはその導入がさらに延期される可能性もありますし、場合によっては軽減税率の部分についての見直しがある可能性は否めません。
3)たばこ税の引き上げ
電子タバコの普及に伴い、電子タバコの税率引き上げが話題となっていましたが、最近の報道では、紙巻きたばこもあわせて税率引き上げを行う方向であるとしています。
所見:
2020年の東京オリンピックに向けて、現在タバコが"やり玉"に挙がっています。厚生省や小池都知事は屋内全面禁煙を視野に入れた法整備を検討しているとの事であり愛煙家の方々にとっては、これは一種の"魔女狩り"ではないかと考えてるところでしょう。
4)配偶者控除、扶養控除の所得控除から税額控除への移行と給与所得控除の見直し
現在の配偶者控除や扶養控除の計算方式と言うのは所得金額から一定の額を控除して税額を計算すると言う所得控除方式でしたが、常々高所得者層の控除税額が多くなるなどの問題が指摘されており、10月23日に開催された総理府の税制調査会では、一定の税額を差し引く税額控除方式への移行に関する議論が行われています。あわせて、給与所得控除の縮減についても議論されているところです。
所見:
与党にはこれを反対する声も出て来ており、実現するには少し時間がかかる可能性が大です。これは、単純に税額控除とした場合、企業が雇用者に支払っている配偶者手当や扶養手当がどうなるのか?といった問題に発展するからでもあり、高齢者の医療負担に係る所得基準をどうするのか(現行地方税の課税所得金額が145万円を基準として1割から3割となる。)といった問題も生じてしまいます。
また、給与所得控除の見直しを確定申告を行うことを前提とするものであれば、物理的にも税務署の職員を大幅に増加せざるを得ないこととなり、こうした点は野放しにされている感が強く残ります。
5)3歳児から5歳児の保育料の無償化
税制改正案件とは関係ありませんが、今回の衆院選で自民党の公約の一つに3歳児から5歳児の保育料の無償化が挙げられています。これは、老人福祉が中心だったこれまでの福祉政策を転換するもので非常に重要なものと考えられます。
所見:
ここ数年、保育園への入園を待つ待機児童の問題が挙げられてきましたが、この動きは、若年層の所得の低下と共働き世帯の増加があり、結果として出産数の減少につながっていることによるものと考えられます。
反面、待機児童の問題は少しずつではありますが改善されて来ており、本来、政策の目標とすべきは待機児童の解消ではなく、出産数増加のための保育料などの育児経費の軽減策と考えられます。これは少子高齢化社会の解消に向けた政策の第1歩であり、是非とも実現させて欲しいものです。