『一帯一路』と言う中国最大の国家プロジェクトをベースにして香港の立ち位置を見て行きますと、単体としての影響は(残念ではありますが)最早余り大きなものでは無いと言えます。むしろこの"商業目線"でこのプロジェクトを(利用しよう)と考えるのは香港の方であり、プロジェクト全体を進める中国からすると数あるプロジェクト内プロジェクトのひとつでしかありません。
事実として歴史的な実績の変遷を見て行きますと、この30年間の間で両者の関係は大きく変化してしまいました。
かつて香港の影響力が、実に中国のGDPの25%前後まであった90年代初頭をピークとしますと、返還が行われた97年にはその数値が20%を切り、そしてその後の中国国内の目覚ましい経済発展を横目に見る形となった香港は、現在では深センにすら規模的には追い越されてしまい、とうとう中国GDPにおいて3%以下(2.9%)と言うところまで落ち込むこととなってしまいました。
つまり、3割弱の"発言権"を持っていた時代から現在の風景を眺めてしまうと"凋落"と見られるしか適切な形容詞がなく、古い時代を知る者にとっては"隔世の感がある"と形容されても否めないような状況なのです。
故にこうした経済的な弱味を憂慮する香港政府上層部は以前から導入されているCEPA(経済貿易緊密化協定)だけでなく、『一帯一路』と言った中国の国家プロジェクトへの関与を積極的に宣言し、またそれを正確に実施することで中国内での影響力を強化しようと試みています。
(但し、今回の参画の形と言うのは従来の『単体参加』と言うものではなく、深センや広州、或いは珠海と言った周辺地域との間で形成された『11都市連合型』の中の"一地区"としてのものであるところが香港の弱い立場を端的に象徴していると言えなくはありません)。
この11都市連合は、一帯一路プロジェクト内に於いては『大湾区』(=英語では"グレーターベイエリア")と呼ばれており、それそのものの規模は、経済規模やマーケット規模などの比較軸で客観的に評価を行うと大きなプレゼンスを示しているものです。
例えばこのエリアの人口は軽く英国一国を上回ってしまうような規模を誇りますし、同時に金融から生産までのあらゆる層の産業が内在していると言うところも"大きなメリット"と評価出来る点でもあるでしょう。
またこれらに付け加えて香港が存在感を表す高速鉄道の竣工や珠江デルタを繋ぐ大橋の完成、また香港国際空港を更に拡充する第3滑走路の建築(2024年完成予定)も今後のポジティブな要素として控えていることになります。
以上、幾つかの論点を軸として香港の行く末を占うと、中国国内との"融合"は、矢張り今後一層必然の方向性が"濃厚路線"。世界GDPでは今やアメリカに次ぐ世界第2位の地位まで上り詰めた香港の"親"である中国に寄り添い、その果実を得て行くことが香港の選択した(する)道であるならば、50年と約束された一国二制度の維持は、案外、香港から破棄をするような、そんな将来の現実も決して無い話では有りません。そうなると、政治が最初に中国化してしまいつつある現在、経済のシフトも世間の想定よりずっと早く現実の形となることかも知れません。