ビジネス上のテコ入れはどこの国や地域でも常に検討され、また導入されていくものですが、香港とてその例外ではありません。香港でもそれは同様で、今年の5月(2018年5月18日)、香港政府は新たな海外人材誘致策である「科学技術人材入国計画」なるものを発表しました。
この計画は海外の科学技術・イノベーション人材を香港が獲得する為の新しいスキームのことであり、香港が今後推し進めて行く計画の柱のひとつと捉えられています。では、その背景として香港がこうしたことを何故行おうとしているか?と言う事になるのですが、それは先ずひとつに対中国ビジネスにおける影響の劣化にあります。
想像に難くないように香港と言う地域は日本のように資源などがない為、常に産業構造上の弱点を抱える市場です。その為こうした環境的なハンデを受けない産業で他との差別化を図って来ざるを得ませんでした。①金融、②貿易・物流、③専門サービス、そして④観光産業と言ったものがそれらであり、実績としてもこの4大産業は香港のGDPの約57%を占めています。
ところがこの中の一つである貿易・物流産業が、中国本土の市場開放や国内の港湾・空港インフラ整備進展の影響を受けた為に占有率をこの5年で約3%減少する形となり、これが遠因となって香港経済全体の成長率を3%以下にさせてしまっていると言われています。
こうしたことに対して事態を重くとらえた当局は、経済の持続的な発展・維持を実現する為には産業の多様化が不可避との判断をしており、故に(従来の強みである①~④に加えて)新しい分野となる科学技術・イノベーション産業の発展に舵を切ったと言う訳です。
勿論、現状では依然としてこの分野に関しての規模は小さく、香港全体のGDPに対してその占有率はたった0.7%だけとなっており、キャリー・ラム行政長官は研究開発費やインフラ施設などの整備の為、500億香港ドルの追予算を許可しました。そして当然のことながら、この拡充計画における最重要課題の一つと言うのはファシリティーの充実だけでなく、こうした分野に専門性を見出す「人材」の確保です。
現在、この科学技術・イノベーション産業における雇用数と言うのは全体の僅か0.9%(約36,000人)にとどまっており、一般的な物の尺度としては、ひと言で表現すると"人材不足"の状況と言えるでしょう。
その為、香港政府としては地域内からの人材登用を優先せず、むしろ海外から優秀な人材を集うことでこの産業の抜本的な構造改革(=意識改革)を推進したい模様のようです。実際、その手法や条件詳細等を見て行くと力の入れ具合が伝わって来るかのようです。
計画の骨子としては、募集期間として2018年6月から3年間の予定で施行され、香港が求めるスペックの海外人材に対してクオーターを与えてビザ申請手続きの簡素化を図ることや、また結果的にこの段階で自国民(香港人)では"代替えが利かない"と言うことを証明する形にもなる為に、ビザの審査期間の短縮(通常4週間⇒2週間)、更にその人材が香港で本格的なビザを申請する際にもこうした煩わしい手続が免除される等々・・・、様々な「優遇措置」が設けられることになっています。
こうして見て参りますと、若干、他力本願的なスキーム然となるのは否めない訳ですが、しかしながら、逆の見方をするとあくまで実利を見て行く香港らしい計画のひとつとも言え、こうした人材誘致の促進と地場ローカル人材の融合が、早晩あちらこちらで見られることになって行くことは間違いありません。