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もうひとつの『ゴーン問題』〜 フランスの抱えるジレンマ 〜

更新日:2019年02月12日

本Blogでも度々取り上げているテーマとなりますが、元日産自動車の会長であったカルロス・ゴーン氏を巡る逮捕劇は拘留期限を迎える都度に延長と言う流れで今日まで引っ張られる形となっています。複数の案件で検挙されている同氏ではありますが、今回はその中のひとつである役員報酬(退職金を含む)を題材として国際課税とフランス側の視点から解説してみたいと思います。


1.概要
フランスのルノーは、今月24日にカルロス・ゴーン氏の会長兼CEOからの退任を決定し、この役員の退任に伴う報酬が最大38円億円(1億円の年金、競合会社への転職禁止に伴う補償金が5億円から6億円、ルノー株式26億円(38万株))に達するとの報道がありました。

フランス政府は、ゴーン氏が退職時に受け取る手当の額が非常に高額であることのほか、同氏が税法上の居住地をオランダとしていたことについて批判してます。


2.役員報酬等と国際課税
(1)給与や退職金等に係る日本国内の課税原則
日本の所得税法では、居住者については給与、退職金などに限らず、すべての所得について課税(全世界所得課税形式を取るのが日本の税法の特徴のひとつです)がなされると言う形になっています。

一方で非居住者についてはどのような扱いになるのかと言うと、日本国内での源泉が特定される所得(給与や退職金については国内勤務分)に対して日本の所得税が課税されます。

例えば、外国法人の日本子会社に勤務し日本の居住者とされる外国人の場合には、原則として全世界所得に対して課税され、非居住者とされる場合には、日本国内での勤務期間に対応する給与、退職金等に対して課税されます。

この形式ですと通常の給与についてはあまり問題は生じませんが、その者が退職するようなタイミング、即ち退職金の支払いに関しては、その支払い時に日本勤務期間分に対応する金額について課税(源泉課税)されることになります。


 (2)日本の所得税法における役員報酬、退職金の取扱い
日本の所得税法では役員の報酬や退職金に関しては、日本国内の法人から支払われるものについては、非居住者であっても勤務場所に限らず原則として課税対象となっています。

例えば、日本から香港に出国した方が、日本の法人から役員報酬を受領している場合(日本国内での勤務の有無にかかわらず)、その全額について日本の所得税の対象となり、現在の所得税法等の規定に基づき支給額の20.42%の源泉徴収となります。


 (3)租税条約
日本が締結している租税条約には、役員報酬・退職金に関して、上記(2)の通り本店所在地国での課税とする条約がほとんどです。これは役員報酬が法人利益の分配としての性格を有すること(例えば業績連動報酬など)のほか、高額な役員報酬のほかストックオプションの付与など非常に高額な報酬となっており、国際課税において役務提供地課税(勤務地での課税)を容認してしまうとた一種の"ループホール"(=税制の抜け穴)として活用されるためと考えられます。


ではカルロス・ゴーン氏の場合は如何でしょうか?

フランスの税制では、個人所得に対する最高税率は49%(所得税及び特別課税の合計)ですが、こう言う税率をとうの昔に見越した(?)のか、カルロス・ゴーン氏は既に税務上の居住地をオランダに移していました。

オランダの個人所得に対する最高税率は51.95%とされているので一見、わざわざ税率の高い所に居住地を移したように見えてしまいますが、オランダでは一定の駐在員に関して『30%ルーリング』なるものが適用されています。

このルールは、最長8年間雇用所得の30%が非課税とされる制度であり、結果として適用対象者の所得税率は実効税率上では36.365%まで下がることになるのです。

このような税制メリットを享受するゴーン氏に対して税務上の居住地で無くなってしまったフランス政府としては、このまま手をこまねいている訳には行きません。

ルノー役員退任に伴う報酬が最大38億円に達すると言われるフランスにとってのゴーン問題、どのような方向へと進んで行くのかに注目が集まります。

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