恐らくこれが中国政府の思惑通りに整備された暁には、この「大湾区」がカバーする産業規模はアジア最大のものへと変化することになるでしょう。この地域には香港やマカオの他、深センを含む中国華南地区を主体とした多くの都市が含まれることになり、合計で9都市のコラボレーションの下には人口が6,800万人、域内総生産(GDP)は1兆5,000億米ドルにまで到達すると言われています。
中国政府としてはこの一帯を世界規模の技術革新拠点と位置付け、2035年までに最先端技術、製造業、サービス業が集まる一大経済拠点へと変貌させる目標を描いています。これは習近平国家主席が打出すシルクロード経済圏構想、「一帯一路」の流れを補填するものとなることにも繋がって来ます。
既に以前のブログでも触れさせて頂いたように、今回の「大湾区構想」と言うものは、2013年に中国の習近平・国家主席が提唱した現代版シルクロード広域経済圏の発展計画である「一帯一路」の"縮小バージョン"となります。一帯一路は、中国が世界経済の中心的地位を占めていた古代シルクロードの再現を意識したもので、出来上がりの最終形もユーラシア大陸からアフリカ大陸に跨がる複数の周辺国を対象とします。
この構想が推進されて行くと言うことは、即ち中国にとっては中国自体が参加国&周辺国との外交の"基軸"として機能をすることを意味し、また新しい対外開放戦略の一環としても位置づけられる側面を持っています。実際、計画の中で根幹部分となるルートは陸路の「シルクロード経済ベルト」と海路の「21世紀海上シルクロード」の2方面から構成されることになる為、その影響力は甚大なものと変化するのは必至でしょう。
具体的な動きとしては、陸海空を一体化した立体的交通網の整備の一環として、新ユーラシアランドブリッジ計画、中国・シンガポール経済回廊、中国・インド・ミャンマー経済回廊など、陸の基幹ルートが形成されつつあり、また、各沿線国には自由貿易区と物流センターが設置されて行くことになります。
同時にこれらインフラ整備を資金面から支援するため、シルクロード基金や、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、新開発銀行、上海協力機構開発銀行などの設立計画が、中国政府の主導で進められていると言った具合です。
このように、中国がイニシアチブを持つ図式の中で「政策面の意思疎通」や各国間での「インフラの連結」、また「貿易の円滑化」や「資金の融通」、「民心の意思疎通」と言った5分野にわたって協力が進められて行くことが提唱されている訳ですが、一方では幾つかの課題点も指摘されているのも事実です。
第一に、政治的な面から域内外の大国の全面的な支持を得ることの難しさであったり、第二には対象国の多様性・異質性、第三には中国と一部対象国との間に発生している領土・領海問題への対処、更に第四の項目として投資に伴うカントリー・リスク等の問題・・・中々一筋縄では行かないと言うのは事実でしょう。
そして、こうした「一帯一路」構想の最東端となる地域と言うのが今回の「大湾区構想」。また、この構想の中で中心的な役割を期待されているのが香港となって来ます。これがどう絡んで行くことになるのかと言う点を次項にてご紹介します。