中国と言う国は今でも"法治"と言うシステムの対局に位置するような国、所謂"人治"国家です。日本を含めた西欧外資系企業にとっては、ひとつ間違えるとこの"人治"が巻き起こす問題に振り回されることで業績全体へのインパクトを与え、場合によっては回復のスパイラルに戻れぬままあえなく撤退と言うような極端なケースもあります。
特にこの中で最も深刻な問題と言うのが実は一番その色に染まってしまう可能性のある自社の従業員=中国人なのです。以下に挙げます事例は実際に中国で発生したケースであり、対策の必要性を今一度説くものとなりますので是非ご参考ください。
事例:
5年ほど前に採用した中国人の販売部長(A氏)が半年ほど前に弊社の競合先に転職しました。その後、当社の現地法人での商品価格や顧客情報を熟知しているこのA氏がこうした企業機密を利用することで競合先に利益をもたらし、結果、弊社は現時点でも甚大な損害を被る形となってしまい、今後更に拡大する可能性を含んでいます。
弊社としてはこのA氏の秘密漏洩を特定し、立証が可能であれば法的手段に訴える考えですがこうした際、中国でどのようなステップを踏んで行く必要があるでしょうか?
回答:
日本を「基準」として考えると中国での秘密保持の意識は軽んじられる傾向が強く、結果として従業員のモラルと言うものは低いと考えられています。こうした状況ゆえ会社側も情報漏洩に関して労働契約書や就業規則などにこうした点を盛り込むことをしているところはありますが、実際の運用については形骸化しているケースも相当数あり、ひと言で纏めると"手薄感"が漂うのは否めません。当たり前のことではありますが、この秘密保持についてはその制度を先ず明文化する必要があります。
例えば秘密とされる情報の定義であったり、それらの管理、また禁止行為や違反時の責任等、具体的に定めて行かなくては異国での満足な成果を実現するのは困難と言えるかも知れません。
では具体的にどのような対策を取る必要があるのでしょうか?
その中で先ず何よりも明確にしなくてはならないことと言うのはそもそも一体何が『企業秘密』なのか?と言うことです。"企業秘密"を定義すると、それは①公衆に知られておらず、②権利者に経済的な利益をもたらすことができ③実用性を揃え、及び権利者が秘密保持措置を講じている技術上且つ経営上の情報等と考えられますが、このように秘密情報の範囲を明確化することと言うのは、秘密情報にアクセスする従業員への注意喚起や「秘密情報だとは知らなかった」と言う情報漏洩時での言い訳の防止にもつながります。
企業秘密の漏洩を防ぐ為に、従業員に対して秘密保持制度を周知させ、企業秘密について教育を行うことはこれから一層不可欠の要素となるでしょう。具体的な企業秘密の保持管理・運営には以下の方法等が効果的です。
1.企業秘密情報にアクセスできる従業員を限定・特定化すること
2.業務用PCやファイル、資料の社外持ち出しを禁止すること
3.秘密性の高い資料・情報を閲覧前は、必ず権限のある者からの承認を得ると言うシステムを作ること
4.企業秘密情報を記載した媒体のコピーを禁止すること
5.離職後、一定期間の競業禁止義務及び経済的補償を記した誓約書に署名をさせること
6.企業秘密保持義務に違反した際の責任の範疇を明確に定めること
こうしたことを徹底することで配下従業員に一定のモラル感・責任感を植え付け、そして現地法人の運営を行うことが外国では必要です。特に"何でもあり"の中国で上記を整備することは必須のことと言う認識を持ち、誰が来ても高いスタンダードで事業運営を行うことと言うのは、まさにこうした点からであると言えることでしょう。