中国の「コンプライアンス」の現状と言うものを解説するには、まずこの国に於ける法的環境の変化について理解をして置かなくてはなりません。
数ある内の中で最初に触れなくてはならない項目と言うのは共産党のトップである習近平が牽引→導入した「腐敗撤廃」の動きです。
2012年、「中央の8項目決定」、所謂、贅沢税禁止令の発表に伴って「反腐敗運動」と言う衝撃的な政策がスタートしました。"腐敗天国"の一国として世界的にも有名であったこの中国で、国家元首である人物が自分の政治生命を掛けて断行したこの動きは中国要人層にとってまさに"ディープインパクト"と称するに等しいほど濃度で行われ、結果としてスタートから5年の内に120名以上の共産党党員、政府役人、武装警察、軍隊の軍官達が"汚職"によって検挙・処分されると言う結果となったのです。
また、時期的には被る形となる2012年から2015年までの約3年間で没収された財産と言うのは実に387億元(邦貨:約6,580億円)に到達すると言うものであり、こちらも如何に中国と言う国が(高官レベルに置いて)"便宜を図る"意味でアンダー・ザ・テーブルの取引があったのかを一部物語るものです。
2つ目として挙げる項目と言うものは、「独占禁止法」の施行です。2008年の中国独占禁止法施行以降、カルテル及び市場に於ける支配的地位の濫用行為への摘発が盛んに行われるようになりました。日系企業の事例としては、電装部品メーカー8社とベアリングメーカー4社が共同で価格操作を行ったとして独占禁止法違反と認定され、結果的に電装メーカー8社が8億3,000万元(邦貨:約141億円)、ベアリングメーカー4社が約4億元(約68億元)の制裁金等の支払いを命ぜられると言う痛手を被っています。
では3つ目としてはどのような項目があるでしょうか?
それは中国国民の法律(訴訟)に対する意識が向上したことです。統計的にもそれは如実に表れているのが見て取れます。例えば中国の最高裁判所及び地方裁判所の事件受理件数に関する統計を見ると、今から5年前の2014年の上記の最高裁が受理した事件数が11,210件だったのに対し、その僅か一年後には15,985件まで伸びる(42.6%増=4,775件アップ!)と言うように、中国の一般層での「権利意識」や「人権」に対する考え方が徐々に以前のものから変化し、行動に結びつきつつあるのが推測出来ます。
上記の3つ以外にも、経済的な発展減速と言うことも大きな要因と言えるかも知れません。何故なら中国がGDP成長率で8%を維持することが出来なくなってしまっていると言うのは今や周知の事実である為、それまで高度発展のベースとなっていた大量生産に代表される「量」と言う考え方から、今度は経済構造のレベルを精査される「質」への舵取りを実行して行かなくてはならない国内事情が横たわっているからです。その実現のベースとなるのが一にも二にもこの「コンプライアンス」の強化であることは、陽の目を見る程明らかなことであると言えるでしょう。
こうした中国の"変化"に対する日系企業の対応には正直な所、これと言った効果的な方向性を示せていないのが現状です。現在の動きで顕著なものは、現地法人の完全なる"現地化"であり、その流れから(結果として)日本からの出向者数は減員の一途を辿っています。
勿論、こうした"現地化"は地場のマーケットでの営業上の側面や全体コスト面ではメリットがあるにはありますが、反面、リスクマネジメント視点からはどうしても"脆弱化"するのは否めず、その為に運営・管理については腐心している企業が依然として多いようです。
事例としては2015年、中国子会社のコンプラ問題を契機として日本の親会社が民事再生まで追い込まれるようなケースもあった程ですので決断次第では甚大な影響を会社そのものに与える可能性が無いとは言い切れません。何れにせよ、多面的な検討とローカル責任者を含めて現地実態の把握は不可欠であり、こうしたことを社内システムに取り入れることが肝要です。