パナマの法律事務所である「モサック・フォンセカ」から流出したとされる資料は一夜にして世界中の富裕層や政治家、また金融機関や一流企業達を震撼させる衝撃的な内容のものでありました。それは、言うまでもなく、こうした富裕層や企業にとって決して"表社会には出て来ないと金融機関から約束されていた内容"、恥部に相当するものであったからです。つまり(例えば)如何にして秘密のオフショア会社を利用しながら自身の財をオンショア課税圏から遠去けるような事を行って蓄財出来るか?等と言うものであったり、また例えば「資金洗浄」(マネーロンダリング)のような手段を使用することで如何に当局からの厳しいトレースを"煙に巻く"のかと言った方法であったり...まさに合法・非合法が混在した、ありとあらゆる域の話を、それも我々一般人が知るような著名な人物達や企業達が手に染めていたと言うスキャンダラスな側面があったからです。
では、こうした中でこの「パナマ文書」が奏でた"香港絡み"のものというのはどれほどあったのでしょうか?
2016年当時のICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)の調査発表によると、この「パナマ文書」の出所である法律事務所「モナック・フォンセカ」では、実は他のどの管轄地域よりも多く香港(及び中国)の銀行や法律事務所との仕事を行なっていたと言う事実があったようです。具体的には同法律事務所が得ていた手数料総計の29%が同社の香港と中国の事務所を通じて法人組織を立上げていた顧客達からのものだったと言うのですから、これは驚きに値すると内容と言っても言い過ぎではないでしょう。
また、その他にもこの文書に記載されていた世界のペーパーカンパニーの数と言うのが約21万社も存在し、そしてその内の約4万社が香港から出ている(同水準の国はスイスのみ)と言う情報もあったとのことですから、この場所(香港)を利用して何らかの秘密スキームを作ることで自分の資産を隠して運用していた個人・法人にとってはきっと気が気で無かったことでしょう。特に、香港を管轄する立場にあった中国にとってはその根の深さが相当な深刻度として目に映っていたのは間違いありません(知っての通り、中国国家主席である習近平氏の義理の兄弟ですらこのリストに記載されていたのですから尚更と言えます)。
そして"史上最高のリーク"とも形容されたあの「パナマ文書」から3年、2019年現在でも(この「パナマ文書」が表舞台に出てしまった為に)生まれることになった数々の"教訓"は、香港を筆頭とした世界中のオフショアセンターにとって様々な"締め付け"と言う形で存在しています。
マクロ的には(BEPSの流れから出て来た)各国間で定期的に行われるCRS(自動的口座情報交換制度=Common Reporting Standard)と言う連携体制の強化や銀行口座開設の高ハードルの維持、また香港内に置いては香港会社法の改正として導入されたSCR(重要支配人台帳=Significant Controllers Report)と言った整備のルールがマーケットを締め付けます。
上記ICIJの報告によると、この3年間に於ける罰金を含めた徴収額がとうとう1,300億円を突破したとのことだそうですから、当局としては"してやったり!"と言うことになるのかも知れません。
しかしながら、こうして"真綿で首を締める"かのようにガチガチになる規則に対して歴史的に排除していた立ち位置に居た香港にとっては、オフショア金融センターの色を今後どの様に描いて行かなくてはならないのかが大きな課題として残って行くことは否めません。
一体、何を持って"自由金融産業の雄"としてその地位を維持していくのか?と言うテーマは、香港そのものの存在価値を問われて行くことになるのは必至であり、その観点では香港の心境をひと言で表すと「複雑」となってしまうのは強ち間違いでは無いでしょう。