この話と言うのは2019年8月9日、中国共産党中央と中国国務院が党内で流した「深センにおける中国の特色ある社会主義先行モデル区建設の支持に関する意見」と名付けられた通達の中から出て来ているものです。
その骨子をざっくりとご紹介すると香港の国際金融センターとしての機能及び国際ハブ空港としての機能を一気に深センに移植してしまおうと言う衝撃的な内容であり、大局的に言って香港と深センの行く末を占うに等しいものと言えます。
中国には、以前から香港以外に自国内で国際機関や資金の窓口を設置したいと言う悲願がありました。そしてその"候補地"として挙げられていたのがまさにこの深センと華北にある上海であった訳ですが、地の利と言いましょうか、香港にあるものを移動したり共有すると言う立地の点や、国家プロジェクトとして進めている「一帯一路」と「大湾区構想」と言う大義上の理由もあり深センはまさに香港の後継を担うと言う面に於いて理想的な候補地となった訳です。
では上述しているテーマである深センの機能拡充→「先行モデル区」と言うものは一体どのようなものなのでしょうか?ポイントは以下の8つに絞られていると新華社は案内しています。
8つのポイント:
① 5G、AI、バイオ、ITと言った先端科学技術イノベーション産業の先行
② 深センへの海外人材の誘致及び出入境管理制度の先行
③ GEM(グロース・エンタープライズ・マーケット)の完成
④ グローバル海洋センター都市の先行地となる
⑤ 国有資産、国有企業の総合的は改革テストを実施する
⑥ 大湾区構想の推進
⑦ 不動産の健全な発展地
⑧ 基礎教育&医療サービス事業教育の水準を向上
これら8つのポイントをベースとして発展に注力して行けば、深センは香港のお株を奪うような国際的市場として昇華する可能性があります。計画上では3段階のタイムスケジュルがあるとのことで2025年までに現代化・国際化したイノベーション型都市を完成させ、2035年までに社会主義現代強国都市の模範となるブループリントが描かれています。
勿論、このような計画はあくまで概要(アウトライン)である為、香港の積み上げて来た"地力"との比較で言うと、その意味ではまだ必ずしも充分であるとは言えません。
一例として挙げれば香港が持つ金融・市場の自由化や開放の度合いがこの計画を推し進めることで深センに狙い通りに訪れるのかどうかは見えて来ない部分であり、また深センを統治する中国にとっても、「自由市場」と言う香港最大の機能を深センまで"押し上げて"しまうのにはかなりの思い切った決断が必要であることは言うまでもありません。
しかしながら、この計画(先行モデル区)の行き着く先と言うのが、深センも香港同様の取り扱い=一国二制度の地となるのが"最終形"であるならば、今後の香港は深センと言う巨大都市に半ば呑み込まれる形でその役目を終える可能性が出て参ります。
香港人のアイデンテティティーとプライドはその段階で霧消し、中華人民共和国内の1都市としての新たな役割の中で生きて行くことを強いられるのかも知れません。
次回では、香港が辿った変遷と深センの一国二制度化が果たしてどのような形となって行くのかについて考察して行きます。