逃亡犯条例改正に端を発した香港政府(中国政府?)と香港人の戦いは泥沼化の一途を辿っています。毎週のようにデモが発生し、それらに参加する民衆の数も何百万人規模に膨れ上がっています。
中国による武力介入が懸念される中、その打開策として現在も様々なシナリオが検討されているとのことですが、8月13日付けの英字紙デイリー・メールOnline版上で、英国の国会議員であり、外交委員会委員長であるトム・タジェンダット氏(Tom Tugendhat)が驚愕の提案を主張して来ました。それは、香港人300万人に対して英国の国籍を付与するべきである、と言うものだからです。
「300万人規模」―、総人口が約720万人の香港の約半分が一夜にして英国人となってしまうと言う可能性・・・気でも触れたのか?とすら勘ぐってしまうようなアイデアではありますが、実はこれ、あり得ない話では無いとのことなのです。
今から遡ること22年前の1997年、香港は"旧宗主国"である英国から中国へ返還がなされ、特別枠(所謂、"特別行政区"と命名)扱いで中国に合流することになりました。以来、香港は中国の一部であることは自他共に認めるところではありますが、表面的なジェスチャーは兎も角、その本音の部分と言うのは香港人自身、(中国人達と我々は違う)と感じているのは明らかです。
その一例を上げさせて頂くと、香港の市民は中国人とは明確に法的な面での違いが存在しており、それは彼等が所有するパスポートの取り扱いとなります。
実は彼等は中華人民共和国香港特別行政区が発行するパスポートの他にもう一つ、英国政府が発行するBNO(British National Overseas=英国海外市民)と言うパスポートを所有しており、これは英国から見ると海外植民地に居住する者たちに与えていた「二等国民」を指しています。
勿論、これは英国入国の際に正当国民であるBritishCitizenの列には並ぶことは許されず、またこれが即、"英国国籍を有する"と言うことには繋がらないのですが、しかしながら英国国籍法の上ではこうした英国海外市民は国籍申請を英国に対して行い、許可されれば自身を登録することで"英国国籍の取得を行うことが可能であると言うことなのです。
前出のタジェンダット議員が主張した点と言うのは、実は返還が行われた1997年時点で英国が中国との連合声明を発する際にこの国籍を巡る部分での"詰め"を確りと行わないまま過ごしてしまったと言う点であり、今回を機として是正を行うことで香港人を"完全なる英国市民権を得た民"と認定してしまう「政治判断」を行えば、まさに恐るべき展開へと事態が発展して行くだろうとの事なのです。
その数、約300万人が明日には"英国人"となる・・・。
こうなると中国政府もこの"旧香港人"には手が出せなくなってしまうことになるのは想像に難くありません。何故なら彼等は中国から見て突然"外国人"となってしまうのであり、従来のように造作無く彼等に危害を加えることをしてしまったりすると、これ事自体が「国際問題」へと発展してしまう顛末となる。
またこの300万人のBNO旅券保有者が英国籍付与を目の前にして中国国籍を放棄手続きを次々と行おうものならば、このニュースが世界中に拡散することになり、世界のトップクラスの大国樹立を目指す中国にとって、この"旧"香港人の選択とアクションそのものが国辱的な打撃としてその歴史に"刻印"されてしまうことに繋がります。
このように実現の可能性は"全く無い"とは言えない香港人への英国国籍付与のアイデア。一国の要職者からの意見でもある為、これが本当に実現しようものならば、まさに"驚天動地"と言える究極の政治カードとなることは間違いありません。