世の中には様々なルールと言うものが存在しておりますが、国の収入と言う視点で機能する税制と言うものはまた特殊な分野のひとつです。更にその中でも海外の国々に進出をしている日本の子会社(海外子会社)との商売上の取引に関係する税務と言うのは、一層特別な領域の課目として業界では認識されている為一般的な税理士では殆ど対処出来ないものと捉えられているのをご存知でしょうか?
今回のテーマである「移転価格」は、この国際税務分野の中において最も高度且つ専門的な知識を求められる分野と考えられています。この領域に対応する税理士と言うのはこれ専門のトレーニングを受けないことには対処出来ない程厄介なものとされていて、大手の外資会計事務所等ではそれだけで何百人からなるチームが存在する程です。
この「移転価格」と言われるものは、親子の関係となる企業、それも海外に跨るケース(例:親会社が日本、子会社が海外)で発生する売買価格の決め方に対して、それらを果たして適正価格で取引を行っているのかどうかを見るものです。そして、この調査の中で頻繁に指摘されるケースと言うのは、"価格設定の曖昧さ"です。
通常、価格設定というのは本社主導で行われるものが殆どですので、これを税務署目線で見た場合、海外グループ子会社とのやり取りと言うのは要注意項目のひとつとなります。何故ならば本来、日本で課税出来る国内利益と言うものが、海外販社等を咬ますと言ったような、言わば商流にひと手間を加えて工夫することで利益を意図的に(海外に)"飛ばす"ことが可能となるからです。
特に香港やシンガポールと言うところは軽課税で世界的に有名なマーケットであり、仮に香港(或いはシンガポール)法人から本社への販売が発生するような場合で値段設定を従来の顧客(例:第三者との取引)のものとは違うレンジで行えば、本社はたちまち利益の"圧縮"が可能となってしまいます。日本は高税率な国でもある為、企業側がこうした例を利用しようと考えるのは自然なことであり、それを税務署側も心得ているのです。
今回のテーマは香港の移転価格となるのですが、こうしたオンショア国(日本やアメリカ)事情と言うのは相当深刻なものであり、故にBEPS行動計画下で2018/19の課税年度から導入されることとなったのです。何れにしても、以下に述べる免除規定以外の海外子会社は香港の移転価格税制に則ったファイル(マスターファイル&ローカルファイル&CbCR)の作成が必要となります。
香港政府としては以下の3つの事業規模に基づ免除基準値のうち、何れか2つを満たした場合はマスターファイルとローカルファイルの作成免除を受けることが可能:
>事業規模に基づく免除基準値:
1.総年間売上高が4億香港ドル以下
2.資産総額が3億香港ドル以下
3.平均従業員数が100人以下
>関連者間取引金額に基づく免除基準値
1.資産の譲渡(金融資産/無形資産を除き):220百万香港ドル
2.金融資産に関する取引:110万香港ドル
3.無形資産の譲渡:110万香港ドル
4.その他の取引:44百万香港ドル
尚、CDCR(国別報告書)と言うものもこの移転価格税制の作成提出義務を負う書類のひとつであり、以下の条件付けに合致する会社は準備を行わなくてはなりません。
・68億香港ドル以上の多国籍企業グループの香港に所在する最終親会社
これは2018年1月1日以降に開始する会計年度を対象に作成を義務付けられているものであり、タイムラインとして年度終了後の12ヶ月以内の提出とされているものですから、この作成に関わる部門は今佳境を迎えている状況と言えるかも知れません。
何れにしましても、移転価格税制がオフショア地域の香港でもここまで意識されることになると言うのことは隔世の感を持って捉える税務関係者も少なくはないことでしょう。
(香港だから大丈夫・・・)と言う思い込みは今後禁物です。