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米国をけん制する、アリババの香港メインボード上場の意味

更新日:2019年12月01日

アリババがとうとう香港の最大の証券市場である『メインボード』での上場を成し遂げることになりました。

もともと米国市場での上場を行ない、大きな成功を収めていた同社でありましたが、ここに来て遂に香港上場を正式にアナウンスするところまで漕ぎ付けたのです。


この上場で調達した金額は今年の市場で最高額となる875億香港ドル(邦貨:約1.2兆円)となり、香港市場関係者にとっては、この半年近く続いていたデモと警察の衝突による暗い社会情勢に楔を打ち込むような、そんな留飲の下がる1日となった筈です。


アリババ側にとっても、この香港上場はひとつの悲願の成就であると言っても過言ではありません。


過去に遡ればアリババ自身が最初の上場を実現したのが実はこの香港市場でした。2007年、アリババは「アリババドットコム」と言うB2B事業会社で上場を行い順風満帆であったところが一転、2012年に不祥事の責任を取る形で上場を廃止したと言う経緯があります。

その後、徹底した社内改革(経営体制の見直し等)を断行する形で翌年(2013年)に再上場の足掛かりを付けるも、今度は香港取引所の規則である、一部の株主に強力な議決権を与える「パートナーシップ制度」(→種類株)と言うものが、ルール違反に抵触するとのことで再び断念せざるを得なかったと言う流れがあります。


但しこれは香港証券取引所にとっても大きな痛手でありました。何故なら行き場を失いつつあったアリババが次に選んだ上場先と言うのが(香港マーケットにとって最大のライバルである)米国ニューヨークの証券取引所(NYSE)であった為です。中華系企業の上場を、それもアリババのような最大級の規模を誇る企業の上場を、たった一文の規制の為に逃した香港サイドの関係者にとって当時はまさに忸怩たる思いがあったことは想像に難くありません。


故に、今回のIPOに先立つこと1年前の2018年4月、香港上場ルールの改正が行われた際にこの種類株の規制を削除したところに香港市場のアリババに対する"無言のメッセージ"が込められていたと言っても決して大袈裟な表現では無い筈です。またこの変更はその後、中国が産んだ"ユニコーン企業"であるスマホメーカー大手の「シャオミ(小美科技)」や生活プラットフォームの「美団」を香港上場に呼び込む結果をもたらすことになっています。


アリババの予定では最終的に1,112億香港ドルの調達を予定しているとのことですが、では何故、このタイミングになって、それもデモ隊と武装警察の衝突で揺れる香港を再び(三度?)上場先として選んだのでしょうか?当初予定していた今年の8月の上場をアリババは見送ったことで(当分は無い)とすら見られていたにも関わらず、その再挑戦を僅か3ヶ月後に実施したのには何等かの強い「事情」があったのでしょうか?


消息通の見方としては、米中経済戦争の余波から米国内で中国企業に対する風当たりも徐々に強くなりつつある中、トランプ政権が米国市場に上場しているアリババのような中国企業のステイタスを凍結すると示唆したとの部分がある為、その対応策のひとつであったとのことです。実際、香港の普通株式とNYSEの預託株式(ADS)が交換可能であると言う側面を持っている為、これは経済戦争のとばっちりを最小限に抑える為に取ったアリババの戦術的な上場とも言えるかも知れません。


何れにしても更なる力を"地元"の市場で獲得したアリババ。1.2兆円の獲得資金は香港市場がまだ依然として強力であることをイメージ付けただけでなく、アリババ自身がこの資金を何時、どのように使って行くのかが今後の投資家たちの関心の的であることは間違いでは無いでしょう。

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