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香港を彩る「看板」、考え方の違い=文化の違い
更新日:2020年02月21日
香港と言う都市は、別の見方をすると"看板大国"と形容しても良いところかも知れません。日本や他の国々も沢山の看板が溢れているのは都市のサイズに比例するものではありますが、香港のそれらは特に"異彩を放っている"と言っても過言では有りません。
これらの看板、正確には「袖看板」と言われるものは、香港内の各地域でも顕著な存在感を示しています。一般的には香港のような大きな看板がある場所と言うのは、都市景観の点から"美観を損なう"、所謂ひとつの"阻害要因"の筆頭として挙げられるものですが、香港の場合はその大きさ、数、密度と言ったものが全て桁違いのスケールであるにも関わらず、何故か不思議なことに街並みに"溶け込んでいる"と言う点が秀逸であると言えます。
特にその様子が顕著な場所と言うのは九龍側のTsim Sha Tsui(チムシャーツィ)やその先にあるMong Kok(モンコック)と言った繁華街であり、これらの場所では昼夜を問わず多くの人達がこれらの看板の下を行き交っています。
実際、香港のこうした「袖看板」は一見無秩序に氾濫しているようにすら見えますが、本当のところを言うとお互いが重なり合わないように設置されており、「広告」としての価値を損なわないような工夫が施されています。
また、色彩については、中国の価値観を根底に引き継いでいるのでしょうか、基本的な配色として赤や黄色、或いはオレンジと言った"縁起が良い"と解釈されるものを使用する傾向が有り、風水を重要視している様がこうした所から見て取れます。
デザインの面では文字のみのタイプが中心と言え、イラストやロゴと言った他国(例:米国など)のバリエーションは余り多く観られません。勿論、文字の中で主体を占めるものは漢字が圧倒的であり、次が英語と言う順番になっています(昨今では地下鉄などの広告看板には日本語も敢えて使用されているケースも散見される様になりました)。
そして香港の場合は面積的に限りがあるので全てがあの"狭い空間"の中で展開・運用されているが故、その副作用的な効果として(特に外国から来られる方々にとっては)こうした袖看板の密集度合いがそのまま"多国籍文化"の連想へと繋がるようです。勿論、この"メルティングポット"的な側面も香港と言う都市のひとつの「魅力」としてカウント出来る特色と言えるでしょう。
以上、香港にとっては切っても切れないこれらの「看板」ですが、規制面から見ると、この"乱立振り"は一体どのように統制されているものなのでしょうか?
2000年に発行されたガイドライン(Guide on Erection & Maintenance Of Advertising Signs)によると、日本のような厳しく細かい条件等は課せられていないと言うのが実勢であり、仮にあったとしても、例えば道路両面から突き出るような形になっている双方の「袖看板」の間には3メートル(以上)を維持しなけらばならない、とか「袖看板」の横の寸法は4.2メートルを最大値とする、と言う程度のものです(但し、こうした都市計画以前から存在する看板については現在も"手付かず"の状況である、と言う歪な面も存在しているのは事実です)。
むしろサイズ云々のことより香港政府(都市計画局)が看板で重要視する点というのは、都市の"風通し"の部分です。元々、亜熱帯の多湿な気候条件である香港は、近代化の段階から導入著しいものとなったエアコンにより街全体が"ヒートアイランド化"して久しく、また2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)のように、密集した建造物が汚染物質を滞留させるリスクを高めてしまったことに対する反省が根底にある為で、以来、風環境のアセスメント(調整)の義務を課すようになりました。その一例としては道路に対する看板の配置を"主風向に対して平行、もしくは30度までの角度とする"と言ったことです。
(所変われば...)とは異国を比較する時に良く人々が口遊むフレーズではありますが、香港のこうした看板に関わる文化やケアもまた考え方の違いと言うスタンスで捉えると興味深いものであると言えるでしょう。