2月26日、香港財政長官である陳茂波(ポール・チャン)氏は、来年度(2020年4月~2021年3月)予算案として総額1,200億香港ドル(約150億米ドル)の景気刺激策を発表しました。
その内容と目的は、昨年から約半年間に渡って断続的に続いた逃亡犯条例再考に対するデモ活動や今年1月後半に中国湖北省武漢市で発生した(驚異的な伝染率を誇る)コロナウィルスが与えた景気への影響(落ち込み)に対する"下支え"の為に備えられたものだけでなく、過去1年近く"消耗戦"を行うことで地に落ちた市民からの信頼の回復を目指す意図もあるようです。
さて、その優遇施策の実際の内容ですが、個人に対するものと法人に対するものの2つの分野に分けられており、詳細は以下の通りになっています。
1)個人に対するもの
・18歳以上の香港永久居民に10,000香港ドルの支給
・2018/19年度(2018年4月~2019年3月)の給与所得税&個人所得税に対する100%の減免措置(但し上限は20,000香港ドル)
2)法人に対するもの
・2019/20年度(2019年4月~2020年3月)の法人税を100%減免(但し上限は20,000ドル)
・2020/21年度(2020年4月~2021年3月)のBusiness Registration(BR/商業登記料)費用の免除
・Annual Return(年次報告書)の更新料を2年間免除
ひとつひとつの解説は割愛しますが、この取り決めの中でもひときわ目を引くものがあるとすれば、それは個人に対する"厚遇"の部分です。
先ず、18歳以上の"香港永久居民"と定義されている枠ではその資格を有するのが(必ずしも)香港人だけではなく、7年以上香港に居住空間を持ち、働くことで永久居民の資格を保有している者全てがその対象となる点が衝撃的です。当然、その中には日本人であったり、欧米人であったり...、つまり多国籍、多人種に跨ることを意味することになるのです。
また(一定額までの条件付きであるとは言え)税額100%免除措置と言うのも日本のような高税率の国の人間からすると"別次元"のような扱いと見えることでしょう。
まさに"大判振る舞い"を行うことを派手にぶっ放した感のある香港ですが、その実というは、やはり厳然とした落ち込みの数字予測があるからであると考えられます。リセッション(景気後退)になると、基本的にどこの国も歳入と歳出のバランスが崩れることになる訳ですが、香港の今年度の結果と言うのは378億香港ドルの赤字(2004年以来、15年振り)を計上せざるを得ず、更に来年度は過去最大となる1,391億香港ドルまでその額が膨らむとの予想まで立てられている状況です。
こうした事もある為、急遽、上述のような財政出動を行うことで景気活性化を謳わざるを得なくなっている訳ですが、果たしてこの試みが吉と出るか、それとも凶と出るかを占うことは現在では(神のみぞ知る)と言ったところでしょう。
但し、よしんばこの策が失敗に終わったとしても、香港市民にとっては自身の政府に対して(僅かながらであったとしても)信頼を寄せる向きが生まれて来るかも知れません。何れにしても実際の稼働が予定される次課税年度のスタート以後、このアジェンダは市民の話題の中心のひとつとなることは間違い有りません。