先頃香港で開催されたAFF (Asian Financial Forum)は、昨今のトレンドとして中国主導の超大型プロジェクトに便乗すると言うイメージが先行していた香港の金融業界の動きとは別の、ともすれば一線を画すようなテーマを取り上げていたことで話題を呼ぶものとなっています。
時期的な面で旧正月10日前の開催時期(2020年1月14日、15日の2日間)であったとことと、旧正月以降は(今や世界的な拡がりを見せている)新型肺炎騒動でその傘の下に隠れてしまったような感がありますが、ここで発表されていたテーマは今後の香港金融界の動きに一石を投じるものとなる可能性を含んでいるものです。
では今回のAFFの中心テーマと言うのが一体何だったのかと申し上げると、それは"フィンテック"関連のものであり、具体的には「バーチャルバンク」と言う、店舗を持たない金融のライセンス導入に関するものでした。
実際、こうした動きが最初にこのイベントに現れたのは中国へ返還後間もない時期であった2000年に遡ることになる訳ですが、この時、香港金融管理局(Hong Kong Monetary Authority =HKMA)はガイドラインを発表するも実績のある金融機関のマジョリティー出資であることが条件付けられていたが為に認定実績としては派手なものとはならず、主だった動きには発展することはありませんでした。
そして2000年から約20年近く経過しようとしていた2018年、いよいよそのガイドラインに修正が施される運びとなり、その結果として翌年に当たる2019年には8行が新規設立としてライセンス許可されることとなったのです。今回のAFF開催時ではZA Bankの試行サービス開始のみにとどまるだけとなっていますが(理由:香港デモの影響)今年は本格的に動いて行くことが期待されています。
では実際、登録されたこれら「バーチャルバンク」達の横顔と言うのはどのようなものとなるのでしょうか?一覧をご紹介すると、先ず、登録された8行の内の5行(*下記参照)には中国資本が"主導"していることが見て取れます。
出資者はアリババであったりテンセント、或いは中国銀行や工商銀行、更には中国平安保険と言った"重量級プレーヤー"達で構成され、また残りの出資者も(香港系企業と組む形ではありますが)中国大手電機メーカーであるシャオミと言った有名どころも名を連ねています。
さて、出資関係は兎も角、香港金融管理局の狙いに目を移すと一体どのような意図が見えて来るものなのでしょうか?彼らは、このバーチャルバンクライセンス許可を行う目的として以下の3つのポイントの推進を行いたいと言う意向を持っていると伝えられています。
1)金融イノベーションの推進
2)顧客体験の向上
3)金融包摂の拡大
当然のことながら、上記3項目は新規参入となる各行もそれらを多分に意識した発表を行っておりますが、水面下では香港市場で常に圧倒的な存在として君臨するHSBCへの"牽制"があるようです。つまり、HSBCが突出し過ぎているが故に金融業界での競争原理が十分に機能していないと言う認識が香港金融管理局には存在しており、こうした新規分野での他行後押しを行うことでより一層の競争を促し、結果として消費者へ利便性などの還元を狙っていると言うものです。
勿論、こうした新しい動きに対してHSBC側も手を拱いている訳では有りません。対抗策として既に新しい取組み(AI活用、スマホアプリ機能充実、ブロックチェーンを利用した貿易取引の効率化等)は発表されており、早々にこうした事が市場に導入されることになる筈です。
香港市場自体が1,000万人にすら届かない人口である為、どちらかと言うと恒常的に"テストマーケティング対象"の市場となりがちがキライはありますが、今回のAFFでの取り扱いテーマと言うのが、数年後に世界的な大きなビジネスの流れを作るひとつの小さな礎(いしずえ)となる可能性は内包しています。
今後のバーチャルバンク構想がどのような"うねり"を見せて行くのかを予想するのも興味深い視点と言えるのではないでしょうか?
<バーチャルバンク5行一覧>
番号 | バーチャルバンク名 | 主要出資者名 |
---|---|---|
1 | Airstar Bank | Xiaomi, AMTD Group |
2 | Livi VB | Bank of China, JD Digits, Jardines |
3 | ZA Bank | ZhengAn Virtual Finance |
4 | Fusion Bank | Tencent, ICBC |
5 | SCB Digital Solutions. | Standard Chartered Bank, PCCW, HKT |