確かに中国が強引に可決してしまった「国家安全法」と言うものは香港に拠点を置いている企業にとって今後の当地でのオペレーションをどのような形で展開して行くべきなのかを考えなくてはいけない重要なものであることは間違いありません。
実際、香港に拠点を置いている米国企業に対して香港米国商工会議所が180社にアンケートを取ったところ、約3割に及ぶ米国企業が法案公布となった場合は"(撤退を)検討する"と答えたとか言われており他国においても同様の反応を示す可能性は否定出来ません。
しかしながら、このアンケートを取ったタイミングと言うのはまだ同安全法が可決されて間もないタイミングであることもあり、こうした"感情的な反応"が市場から出て来ると言うのは至極当然のことであると見る向きもあります。
では実際の形として、この「香港」を介在する形で睨み合う中国と西側諸国の対立軸をどのように捉えるべきなのでしょうか?また一体どのような手法が今現在の香港に対して採られて行くと考えるべきなのでしょうか?
これらを語るには「香港」というマーケットが一体どのようなものであるかを見て行く必要があります。先ず、中国側の状況としては香港を"無用の長物"として扱えるほど軽い存在ではありません。国家元首である習近平の判断はどうかは別にして、中国共産党の上層部の人間、所謂、政府高官たちの資産と言うものは、実はこの20年超の間でこの香港を経由して諸外国への投資と言う形で運用されて来たと言う実績があります。
また彼らの子息等の多くは実は米国大学などで学ぶ者も多く、米国のトランプ大統領が香港への優遇措置の見直しと言う宣言を出した背景というのは、こうした中国側の資金や人の流れの構造を理解しているからのものであり、ここに楔を打ち込まれてしまうと共産党上層部に匕首が突き付けられることを意味します。
つまり、共産党内部の個々人に"実害"が発生することになり、場合によってはこの反動として習近平首席自身の支持基盤が共産党内部から崩壊する可能性すらあると解釈する向きもあるほどです。真偽のほどは兎も角、こうした"裏事情"もあると言われているのは事実であり、故に公布を強行することはそれほど簡単なものでは無い類の問題であることが見て取れます。
では、米国側にしても香港に"トドメを刺す"ことによるダメージはないのでしょうか?2018年などの同国の対中投資を見ると中国への投資額が成長維持(対前年度比7.7%増)を記録していた言うことを事例に取り上げるまでも無く、米中貿易戦争の恒常化、深刻化は当地で事業活動をする米国企業に取って大きな痛手となることは想像に難くありません。
更に当局から"狙い撃ち"されることになるのは明らかであり、国際間の産業が入り組んだ昨今の状況では混迷を極めることになるでしょう。当然、香港優遇措置排除を強行するトランプ政権への非難というものはより一層強まる可能性は否定出来ません。
以上、こうした論点でこの「国家安全法」が招く適切な"落とし所"はどこなのかと言うことですが、この稿での結論を言うのであれば、中国も米国も、香港の経済を守る形で何らかの妥協点を模索して行くのではないか?と言うことになるのではないでしょうか。勿論、状況は刻一刻と変化しているのは事実であり、その意味では極めて"流動的"と形容するしかありませんが、国際世論がこれ以上の形で炎上しないのであれば米中の全面激突となる可能性は低くなると言えます。
上述の諸事情、特に中国側の事情に至っては政変の可能性すら含む要素がある為、共産党が行う法令内容の匙加減と言うものがどの程度のものになるのかと言うことが焦点となるのは間違いありません。
何れにしても「香港」を利用して来た"ツケ"と言うものを共産党(政府高官達)がどのように支払うのか?と言う点に注目し状況を見守って行くのも一考と言えるのではないでしょうか。