ジョブマーケットの動きというのは現代の経済を表すひとつの重要な情報です。人材の流動化が活性化すると市場は好景気に入り、その逆に鈍化すると経済は停滞を示すことになるのは言うまでもありませんが、現在は世界的なコロナ禍の状況下と言う事もあり、この市場の動きは極端に低下している形になっています。
しかしながら、一旦ことが収まる流れとなれば再び流動指数が上昇を示す事になるでしょう。
さて、我が国でも「終身雇用」と言う概念が半ば崩壊しつつある昨今ではありますが、とはいえ「転職組」と言うのは、受け入れる会社側によってはまだまだ"マイノリティー"な印象があるのは拭えません。
また転職回数に関するモノの見方と言うのは日本では一様にネガティブに捉えられる面があることは否めず、これはこの国を構成する経済にとってある種の功罪を招く要因となっています。では他国に目を移すとこの「転職」と言う概念は一体どのように捉えられるものなのでしょうか?今回はその切り口で日本と繋がりが深い国々の「転職」の捉え方についてご紹介しましょう。
米国:米国では日本のような「終身雇用」と言う概念が同国の歴史を通じて全く存在した事がありません。その為、一般的にはどの企業でも通年で採用活動を行っています。転職者にしても「転職」を機にスキルアップやキャリアアップ、また収入アップを目的にアクションを起こす者が多く、その面から想像しても社会的に"転職=悪"、と捉える向きは皆無と断言しても良いでしょう。
実際、意識調査を米国民に行っても多くの就労者は将来的な「転職」を希望している人々は多く、20代に至っては何と8割近くの就労者が「転職」を希望していると言うデータもある程です。
また別の調査では18歳から46歳の間に11以上の仕事を経験すると言う豪傑(?)も存在するくらいですから日本のデータ(勤続年数20年超⇒23%)と比較すると米国は「転職」についてはまさに"別世界"と表現しても良い存在かも知れません。
アジア:
アジア諸国での転職事情というのは上述の"米国寄り"と言うものではなく、意外ではありますが、むしろ"日本寄り"と言うスタンスを取る国が多いと言う事が一般的です(香港&シンガポール除く)。実際に平均の転職回数だけをピックアップすると日本の生涯転職回数がトップの0.89回であるのに対し、韓国は0.99回、マレーシアは1.59回、インドネシアは1.64回と言う水準に止まります。
また違う視点でこれらの国々を比較した場合、日本では転職未経験者の待遇が(転職回数が多い人材に対して)管理職になり易いと言うデータがあることに対して、中国や香港やシンガポールではむしろ転職組が持ち込むスキルや経験等の為に上級従業員(管理職)にいきなり任命と言うケースが一般的です。
このデータで解釈できる事と言うのは、日本における転職回数が昇進に影響を及ぼす考え方の根底には、自社プロパー社員の貢献を重視しているという向きが強く、これは「終身雇用」と言う概念が根強く残っている"我が国独特の思考構造"と換言しても良いかも知れません。
他方、インドネシアは転職回数と言う論点でアジアでは日本同様少ない部類には入るとは言え、それは「転職」そのものに関して悪い先入観があると言う理由ではなく、それなりの時間を掛けることで結果を導き出すと言うスタンスがあると言われいます。
では香港はどうでしょうか?当地では転職活動は極めて日常的に起こっているものであり(それこそ年に数度転職する事すらザラです)、特にダブルペイ(賞与)が支払われる旧正月前後に人材の流動性が一気に集中すると言う特徴があります。またこうしたトレンドは香港だけに止まらず、シンガポールや中国でも同様と言っても間違いありません。
彼等の頭の中には「転職」自体について全く罪悪の意識は存在せず、自身の貴重な時間と労働力を提供しているのだから、(不満があれば他を探す)と言う感覚が極めて自然なこととして備わっているのです。日本企業の駐在者が驚くのも実は彼等のこの面であり、企業として現地法人の管理を任される職務の方々にとっては常に次を探して置かなくてはならないと言うことに留意して置く必要があります。
以上、一部ではありますが香港や日本、或いは米国、アジアの転職に関する見方と取扱いを纏めて見ました。現在の市況はパンデミックの影響もある為、転職市場については"低空飛行"にならざるを得ませんが、同時に回復傾向のスパイラルに入ると想定される今年の後半からは、上述のトレンド回帰と言う流れが各国で必然的に起こって来ることは間違い無いでしょう。