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それぞれの立場とそれぞれの考え。「香港」を巡る市民の立ち位置

更新日:2020年08月20日

今年の6月末となる30日、香港において反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が中国の全人代(全国人民代表大会)常務委員会で可決・成立しました。

そして、これを受けた香港政府は同法を即時施行することを決定した為、この瞬間から中国は香港の自治権を呑み込む力を所有することが現実のものとなった訳ですが、このやり取りについて香港市民が持つ反応と言うのは、マクロ的には強い不安や異議を唱える姿を捉えるものが多くを占めてはいるものの、ミクロ的には各々の立場によって解釈や反応の仕方に大きなズレが存在しているようです。


勿論、典型的な見方で当地を判断した場合は香港に住む香港人や外国人達の意見と言うのは"統一したもの"となっているのは事実ですし、またその印象が強く伝わります。


一例として金融界を挙げると、金融系企業の多くは香港が今まで構築して来た「国際金融センター」としての地位と言うものがこの一連の動き(抗議デモ⇒国家安全維持法)によって次第に"形骸化"し、その結果、数年内に外資系企業達が資本引き揚げを行う可能性を仕切に強調します。


この局面は確かにひとつの方向性として存在する選択肢ですので否定は出来ませんが、それでも公平に捌くとした場合はやや過剰反応しているキライがあると言わざるを得ません。


彼等の言う論点とは、香港のメリットとして挙げられる数々の特色と言うものが、今回の"中国化"により甚大な損害を被ることであり、最終的には機能不全を侵すと断定するものです。

しかしながら、こうした不安点と言うものの中には深慮した上で発信しているものでないものが多く、例えば外貨送金について香港に規制が入るようなことを平然と言及する輩すらいます。実際、こうした類いの通貨規制は中国にとって何らメリットなど無く、このような"愚行"を態々強行する意味が無いと言うのは少し冷静になれば誰でも分かるものです。


一方、香港の繁華街で有名な旺角(モンコック)に店舗を構えるなどしてビジネスを行う小売業から見る香港の"風景"と言うのは上述とは"かなり違っている"と言えます。何がどう違うのかと言うと、彼等の中には何とこの「香港国家安全維持法」に期待感や安堵感を漂わせている者すら存在していると言う点です

その真意は一にも二にも経済的な側面から来るものであり、心情的には香港のアイデンティティー喪失に心を痛めつつも、現実的な選択肢としては"明日の食事"を選ぶと言うやつです。事実、これまで発生した抗議デモや今回のコロナ禍と言う連続的な"災難"によって彼等が置かれた状況は過酷であり、売上比率において大きな占有率を誇る本土からの中国人客との接点が激減⇒売上激減と言う負のスパイラルに陥ってしまった業界の人間にとっては、この「国家安全維持法」施行はひとつの"福音"と言えるものなのです。

何故ならこの法が本格導入されることでデモそのものの抑制が香港中国政府連合の手先と言える警察部隊によって鎮圧されることになる=ビジネス環境が劇的に"改善する"と言う青写真を持っているからです。


また世代間で本件を見た場合も解釈は顕著に分かれると取っても良さそうです。それはひと言で形容するならば老齢者と若者の中にある認識の「ギャップ」。


血気盛んな若者たちはより"中国離れ"をアピールする傾向が強く、自分を「中国人」とは認めることに大きな抵抗感を覚える者が多数います。中には自らを「香港人」と声高に鼓舞する層すらいる程で、一種のアレルギー状態に陥っていると形容しても良いかも知れません。

彼等の多くは1997年の返還以後、様々な面で中国との接点を持たされる環境の中に身を置き育って来た訳ですが、今回の「国家安全維持法」施行をきっかけに改めて自己のアイデンティティーを確認する状況に身を置かされることになり、"香港ナショナリズム"に目覚めてしまったと言えます。


他方、老齢者の視点は別のところにありそうです。彼等が見る解釈と言うのはまさに"ひとつの中国"が前提であり、その意味では台湾に対する中国のやり方を支持する者すら居ます。同じ香港に住み、同じような体験や立場を共有する彼等ではありながらしてこれほどの違いがあるのは我々部外者である者から見ても興味深いものがあります。


総評として現在の香港を眺めると、人間にとって一番自分の考えを決める要因として重要なものと言うのはお互いの持つ事情=立場と言えるかも知れません。


果たして香港を誘う明日と言うのはどこを向いているのでしょうか

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