既にご存知の通り、現在、依然として香港では中国政府の決定した当地居民に対する「国家安全維持法」適用の余波が続いています。
先般8月10日には、2014年の「雨傘運動」以来"民主主義の女神"と当地で称されていた周庭氏(アグネス・チョウ、以下"アグネス氏")や自由主義を標榜し反北京・親民主派路線での報道活動を中心に行なっていた報道機関(新聞)である「蘋果日報」の黎智英氏(ジミー・ライ氏)等を含めた8名がこの法への違反の疑いと言う容疑で衝撃の逮捕劇が執行されることになりました(→本逮捕の顛末は当日夜"釈放"で決着)。
この「強権発動」に対する世界の反応と言うのは、香港を問答無用の力で押さえ込もうとする中国の"傲慢さ"に対する非難が紛糾しているような様相ですが、当の中国側の反応はと言うと「内政干渉」のひと言。まさに"微動だにせず"と言う態度の表明であり、その姿は中華思想そのものを体現するようなものであった言っても良いでしょう。
このように中国によるこの「国家安全維持法」が与える"弾圧"と言うのは、一見、香港のみならず今や世界中から非難され、また同時に恐れさせているように見えますが、一方で、この"強硬姿勢"と言うのはプライド高き中国(及び香港政府)自身の「対香港政策」に於ける失敗から来る反動によるものであり、それゆえ結果的には「文明国家」とは言い難いような野蛮な手段や屁理屈を使用せざるを得なくなったのではないか?と見る向きが実しやかに囁かれるようになって来ています。
仮にこれを"是"として内容を掘り下げたとした場合、では中国の"失敗"と言うのはいつ頃を契機として始まったのでしょうか?例えばですが2014年の「雨傘運動」以降、中国が西側の倫理感から逸脱するような愚挙を行なったことは幾つかございました。
雨傘運動発生の起点となったのは2014年の全人代で普通選挙のルールを強引にねじ曲げをした事ですし、その流れで2016年には(香港の)立法会選挙で反北京を掲げる民主派が6議席を獲得の取り消し、また2018年には上述のアグネス氏の(立法会への)立候補の機会を与えることすらせず、これらに加えて「民主派」と「自決派」の若者達を危険視することで強制的に排除する等々...尽(ことごと)く、公平な議論の場の提供を潰して来た訳です。
当然、こうした数々の暴挙に対して貿易上で香港優遇措置を施す米国を筆頭とした西側諸国は激しく反発、先般のトランプ政権が発表した香港政府官僚11名の資産凍結などはその制裁措置の一つと言えるのは周知の事実です。
ただ、もう一方では"真逆の考え方"も徐々に現実味を帯びて来ている点にも注目する必要があります。それは「香港」と言うマーケットをNYやロンドン、東京と言った従来の金融システム(西側主導)から徐々に切り離し、中国主導の「デジタル人民元」マーケットの中心拠点へと変貌させると言うアイデアです。
つまり、香港のこうした"構造変革"を実施する為の最初のステップがこの「国家安全維持法」の可決となるのであり、今後の自国の計画を100%反映させる為に必要なアクションであったと言うことです(=端的に言えば欧米の排除が目的)。
中国は(一帯一路計画でもそうですが)自分達より弱い国が多数点在するアジアや南米、アフリカなどに巧みに歩み寄り人民元による一大経済圏を築き上げることを国是としており、今後を見越して元を将来の"世界最強通貨"として昇華させる為、中国は(一時的な制裁を承知の上で)その舵を切り始めたと言う訳です。
何れにしましても香港を巡る中国の措置の数々と言うのは、ある意味で"常軌を逸している"とも思える面を含んでおり、約束事をこれだけあからさまに破る行為の裏には何らかの特別な事情や思惑があると考えることが妥当なのかも知れません。
今後の展開にはより一層の注目が必要であると言っても過言ではないと言えるでしょう。