中国による香港への「国家安全維持法」に対し、旧宗主国である英国はその対抗措置として今年の1月31日から、香港に住む「英国海外市民(BNO)旅券」保持者らに英国の市民権を与える道を開く特別ビザの申請を受付けることを開始しました。
ご存知の通り、英国統治下の時代では政治や言論面で自由が謳歌出来ていた香港でしたが、2014年の「雨傘運動」、2019年の「逃亡犯条例」と言う大きな衝突を経て、昨年6月、とうとう中国が香港の基本法を打ち破る「国家安全維持法」を可決したことを受け、政治面における言論統制の圧力がハッキリした形となって社会に影を落とすようになって来ています。
こうして中国から"蹂躙"されつつある香港に対し、英国は"救いの手"を差し伸べる形としてこの特別ビザ申請の道筋を開いた訳ですが、中国側は先般の記者会見においてこの英国の措置を「強烈な憤慨と断固として反対」と激しく非難、1月31日からの旅券を"正式な旅券や身分証明としては承認せず、また更なる対抗措置を取る権利を留保する"、としています。
このように「香港」を巡る両国の緊張は今まさに沸点に到達しつつある状況ですが、世界第2位のGDPを誇り、また面子を重んじる中国にとっては、仮にこの特別行政区から今後5年間で最大100万人が英国に移住するとの予想が現実化した場合、国際社会での立ち位置に大きなイメージダウンは避けられないと考える向きがあり、その為、(英国に対する牽制は元より)香港居住者に対する圧力もより一層強めて行くと噂されています。
その一例として、通常、香港市民はGNOの他に香港特別行政区が発行する旅券も同時に所有している訳ですが、これに対して英国移住者となる層については香港永住権そのものの剥奪の可能性も今年の3月の全国人民代表大会(全人代)で何らかの決定が下されるとも言われており、余談を許す状況ではなくなりつつあります。
英国が掲げる政策であるこの「特別ビザ」の建付けと言うのは同国での就業や就学、また国民保健サービス(NHS)の利用が可能となるものであり、その条件で5年の滞在期間を保証、更にそのハードルをクリアするとその者に対して「永住権」を付与、加えてその1年後には「市民権」の取得手続きが可能と段階的にステップアップするものです。
そして特別ビザ発給の根拠となるこのBNO旅券は、1997年の香港返還前に生まれた人に与えられるもので、現在、約750万人の市民の内、290万人程度がその所持資格を持っていると考えられています。また、この特別ビザは上記の旅券保持者の家族も申請が可能である為、総計では域内人口の7割超に相当する540万人がこのビザ取得権を所有すると考えられています。
香港メディアによると、英国政府は2025年までの5年間で香港から英国への移住者数を3つのレベルで試算しており、最小のロットでは9,000名超、中間のレベルで32万人超、そして最大レベルで約105万人の移民が生じると見ており、果たして現実的にはどの水準で着地するかが今後の焦点となりそうです。
一方、中国としては表面的にはその態度が(国家の面子の問題が出ている故の)"激しい反発"と受け止められている反面、むしろこの反発自体がポーズであり、これを機にむしろ香港域内に居る"危険分子の追い出し"を歓迎しているとも言われています。
また、英国にも香港人移民受入れで真剣になる理由が香港人富裕層の持つ資産を呼び込むことがメリットとなるからであり、大胆な見方をする場合、この両国は水面下で手を握り"対立"そのものが一つの演出、所謂、「手打ち」となっている可能性すらあります。
何れにしても真の意図と言うのは表面には出て来ることは無いでしょうが、今後のこの特別ビザを巡る両国の対応、「香港」の行末の占う上での鍵として見て行くことが必要となって来るでしょう。