3月21日、サウスチャイナモーニングポストの報道によると、英国政府は1月末にスタートした英国海外市民旅券に対する申請受付数が約1ヶ月半で約27,000件を受付たことを発表した、とのことです。これは、昨年の6月末に中国が発令した「国家安全維持法」以降、それまでにも増して強まっている香港市民に対する言動への"圧力"に対する西側諸国のひとつの対抗策として注目されていましたが、この「特別ビザ」制度とも言える旅券発行の余波は、これから香港を巡るひとつの重要な"争点"となりそうです。
事実として香港では相次ぐ民主派の活動家達の摘発に加え、中国側が(民主派排除を狙った)選挙制度改革を決定するなど明確な政治的"圧力"と取れる動きが上述の国安法以後、一層活発になっており、その為、香港市民にとっては今まで"過去の遺物化"となっていた手段である「移民」への関心が高くなって来ているのではないか?と考えられて来ましたが、今回のこの"件数"と言うのは図らずともその噂が現実味を帯びているのだと言うことが証明されたと言えます。
移住コンサルティングを行う専門業者などによると、今後1年以内に約20万人がこの「特別ビザ」の申し込みを行うのではないか?と見ているとのことです。
「特別ビザ」は、中国による香港統制を強化する「国安法」への対抗策として、香港の旧宗主国である英国政府が計画・導入した訳ですが、香港人口の7割超に当たる約540万人がその資格対象とされています。この「特別ビザ」が従来のものと一線を画す点と言うのは、もともとこのBNOと言うのは単なる渡航許可証であり、英国への渡航についても6ヶ月のビザなし渡航しか認められていないものだった言うことです。
もちろんこの保持者には自動的に就業や居住を認められているものでもなく、また社会保障の対象にも含められていないものでした。ところが今回の"新しい"BNOは、香港市民(外国人は除く)だけを対象としている点は共通するも、英国内での就業や就学が可能となり、更に移住から6年後には晴れて英国市民権の取得手続きができる資格を付与されると言うものとなったことです。
今回の申請者数を発表した英国首相であるボリス・ジョンソン氏は「香港のBNO保持者が英国で暮らし、働き、生活ができる新しい道筋を作れたことを大変誇りに思う」と宣言し、英国の対中スタンスを明確にしています。
一方で、これを"受ける"形となった中国としてはこの英国の政策に"内政干渉だ"として強く反発。この「特別ビザ」そのものを認めず、また、それでもこれを申請・使用しようとする市民に対しては(2000年から制度化してスタートした)当地域の年金積立制度に当たるMPF(Mandatory Provident Fund=強制積立金)の没収などを課したり、警察には密告制度を導入する等々...様々な手段を行使して"揺さぶり"を仕掛けています。
様相としては混迷の段階へと入りつつある両国関係...。
"中国寄り"と言われていた米国バイデン政権も、台湾政策においては既に前政権の政策を踏襲する意向との流れや、また総体的には"緩和されるであろう"と期待されていた米中関係も先の米国アラスカ州での外交トップ会談にて中傷合戦を繰り広げられたことを考えると、英米と中国の緊張関係は、今後この香港情勢にも"陰り"を与えて行くのは濃厚です。
来年の今頃、このBNO申請者数が本当に20万人規模まで膨れ上がることになったとした場合、中国の国際社会における地位やメンツは益々追い詰められることとなり、その時どのようなカードを切るのかが注目されます。願わくば、香港人にとってそれが最善なものであることを祈念しますが、その確率は限りなく"低い"としか言えそうにありません。