物事と言うのはどんな場合においても"2面性"と言うものを含んでいるものです。
片方の主張ばかりを聞いていると、自身の考え方や行動原理というものが"画一的"になる傾向が強くなり、結果として、それを実践した者にとっては必ずしも良いものになるとは限りません。
このように、「見方の違い」と言うのは、その昔、日本映画界の巨匠である黒澤明監督が撮った「羅生門」のようにそれを観ている人の"偏見"が事実そのものを歪曲したり、全く違うものにしてしまうような要素があります。
そうした点で先月の30日に可決された"香港の選挙制度の見直し"と言うのは西側諸国と中国の見方が真っ二つに分かれたものとなったと言えるのかもしれません。
中国の全国人民代表大会(全人代=日本で言う"国会")常務委員会(以後、"常務委")は3月も終わりを迎えた30日、香港の選挙制度見直しに関する議案を全会一致で可決しました。その内容を簡単に言うと香港政府トップの行政長官と立法会(議会)議員の選挙において、次回の選挙から民主派を徹底的に排除することが確認されたと言うものです。
換言すると、中国習近平指導部による香港への統制強化はここでひとつの区切りを迎え、香港の高度な自治を認めた(一国二制度)は事実上の終わりを迎えたと言えます。
習近平指導部は2019年に香港で政府への抗議デモが激化したことを受け、翌年6月に香港国家安全維持法(国安法)を施行することで香港の治安維持機能をその手中に収め、同時に民主派の活動を徹底的に取締りを行なって来ました。
今回の選挙制度見直しでは、中国当局が愛国者と認めた人物しか選挙に出馬できなくなり、これによって香港に於ける政治体制も完全に統制下に置いたと言うことになります。中国国営の通信社である「新華社通信」によると、この新制度下では選挙に打って出る候補者が、共産党や政府の方針に従う愛国者であるのかどうかを基準とし、その立候補そのものの可否を審査する委員会を設けると言うものです。
この際、既に香港に設置されている「国家安全維持委員会」の意見も踏まえる形となり、間接選挙である行政長官選で投票権を持つ「選挙委員会」の定数が、今までの1,200から1,500に増加し、また増員数であるこの300議席はすべて親中派組織に割り当てると言うものです。また、民主派が優勢と考えられていた区議枠(117) を廃止した為、委員会の"勢力図"はこれで一気に親中派にとって極めて有利となりました。
さらに立法会の定数は70から90に増やし新たな議席数の内訳は、全有権者が投票できる直接選挙枠が今までの35から 20へ減少、また金融や商工業など業界団体の関係者や区議に投票権がある職能選挙枠も35から30に減らされ、新設する選挙委員の枠は40となるとのこと。
このように、従来、民主派とってに有利とされてきた直接選挙枠が減らされたことにより、親中派が確実に多数を握る仕組みが完成したわけですが、香港基本法では"行政長官と立法会の全議員を「最終的に、普通選挙で選出する目標に至る」と明記しています。
全人代は基本法を1990年に可決していましたが、上記の抜本的な変更を断行したと言うことは、香港住民に約束した内容を完全に反故にした格好となった訳です。
当然のことながら西側諸国がこの中国の香港選挙制度見直しに対する批判を強めるのは必須とみられていますが、一旦これを中国側の視点に移して見ると、むしろこの制度見直し断行こそが、長年、離れていた香港の「主権」を中国がようやく"取り戻した"と言う見方が支配的だと伝えられています。
更に(香港人には)"もともと人権など英国統治の時代からも存在しなかった"とまで断言する層もいるほどですから"所変われば品変わる"と言う言葉が合致すると言えなくもありません。
中国は、"中国の正義のため"に断行した今回の「香港選挙制度見直し」。
さて、"次"は一体どこになるのでしょうか?