香港 > 税務
移転価格の調査とその流れ【コーヒーブレイク】
更新日:2021年05月25日
香港やシンガポールと言った軽課税を"売り"にする地域・国と言うのは移転価格税制についての意識は余り"醸成されていない"と言っても良いでしょう。
実際のところ、移転価格上で調査対象となる法人のレベルと言うのは、規模としてメインボードに上場するようなクラスが主要であり、中国などの本土の出先的なポジションである香港法人が対象になったりするのは現実的なことではないからです。
また、もともと税率が低いと言うこともある為に資金が当地に滞留するケースが(傾向としては)強いこともあり、充分な課税条件及び環境は整っているので尚更です。むしろ、そのような環境下で神経を尖らせるのは本社機構がある日本国内と言うのが一般的であり、その面からこの移転価格調査を見て行く必要はあると言えます。
(1)移転価格調査の概要について
以前は移転価格調査と通常の法人税の調査の担当部署は異なっており、その為に調査が同時に行われるようなことは稀であったと言えます。しかしながら、複雑化する商取引及び税収確保(?)と言った背景も後押ししているのか、昨今では税務調査は同時に起こる動きとして捉えられています。
移転価格の調査には、通常、数ヶ月〜1年程度の長期間を要することと、移転価格の調査対象となる事業年度の期間の幅と言うのは6年間とされています。また、その調査対象についても海外海外子会社への棚卸し資産の販売取引や製造ノウハウなどの無形資産取引と言った広範囲に渡る為、おのずとその追徴税額も大きくなるのが普通です。
以前の調査事例としては、一部の大規模法人が移転価格調査の主要対象とされておりましたし、一件あたりの更生金額(増加所得金額)も20億円前後と言った具合で推移していましたが、ここ数年のトレンドを見ると、一件あたりの金額はより小口(数億円規模)に推移して来ており、税務調査の対象範囲については税務署が明確に矛先をシフトしたことが見て取れます。
(2)移転価格調査の流れ
日本法人の利益率が、海外子会社の利益率に比べて著しく低い場合や、年度による利益率の変動が大きい場合、また同種事業を営む現地法人の利益率と比べてその海外法人の利益率が高い場合など、何らかの移転価格上の問題を生んでいるのではと想起される場合に、移転価格の調査が実施されます。
基本的な流れとしては全世界の上場・未上場企業の事業概要、財務諸表等が収録されたデータベースを積極的に活用し、各国の税務当局は移転価格課税の執行を行いますが、先ず最初に類似企業の財務情報を抽出し、これを調査対象企業の数値と比較することで、どこに移転価格上の問題があるのかを探って行きます。
その後、対象会社に対する実地調査のステップへと駒を運び、通常の法人税調査に同行する形で会社訪問を行うことになります。
そこでは国外関連取引に関する多くの資料やデータの提出を税務官は対象会社に求めること、個々の国外関連取引について具体的な検証が進められ、調査対象取引が徐々に絞り込まれて行く流れとなります。そして逸失利益の足し戻し(増加所得金額)等の計算が行われ、課税額が決定されると言う訳です。
特に大規模企業における移転価格調査では税務当局による更正額を不服として異議申し立てや相互協議に進むケースが多いと言う特徴があり、通常、これらの救済手続きには数年の期間を要することが多い訳ですが、(こうした豊富な人材を抱えた大企業と異なり)一方で人的資源に限りのある中小企業に於いては、そのような対応が現実的には難しいことがあるので、移転価格の専門家を登用するなりして事前に対策を取らないと、実際の調査時で高額の更生額支払いを命じられるケースもある為、経営者はその面での意識を高くしておく必要があると言えるでしょう。