ここ数年の香港に関する報道の多くは中国から人権蹂躙とも言える"圧政"を受けていると言う系統のものが多く、外(国)からこれを眺める者からすると本当に"心を痛める"ような、そんな内容ばかりに関心が集まってしまいます。実際、米系企業や日系企業などでも香港の拠点を畳んで他の国へ機能移転を行うと言う報道も多々あり、まさに西側資本からすると中国からの規制が入る前の段階で"引き揚げてしまうのが得策"と言うようなイメージが定着しそうな感すら漂います。
しかしながら、最近はこうした感情を"煽る"報道や記事とは裏腹に、大手金融機関などでは冷静な対応をしている情報がリークするようになって来ました。曰く、銀行やファンドと言った金融サービス企業群は上述のような撤退・縮小と言う流れとは真逆である増強・拡大を前面に押し出しつつあると言うのです。
これは、まさに"驚天動地"のスタンスではあるのですが、どうやら大手金融企業は確固たる勝算を持ってこの取組み展開しているようです。彼等の考え方の中には、数値だけでは無い多くのアサンプション(仮定)が存在し、場合によっては自らがその背後で動き回ることを前提とした近未来図を描いている可能性があります。つまり、(近年の動きから)今後香港が対中、対世間においてどのような役割を担って発展して行くのか?と言うことが、高い確率で見えているのでしょう。
表面的な情報だけを拾うと彼等は半ば異口同音に(中国政府の締め付けと言う懸念は存在するものの)急成長する中国の「玄関口」と言う特別な立地が香港の利点であると始め、ゆえに金融都市としての魅力は依然として健在である、と結びます。
実際、追って述べる彼等の行動も上記のコメントに連動しており、これは昨今の経済状況から考えると過剰な「先行投資」とすら見えなくもありません。
具体的な動きとして驚かされるのが、ゴールドマン・サックス、シティグループ、またUBSと言った大手投資銀行群での今年の新規採用者数の尋常でない拡大です。何れの企業も数百人規模の採用を香港で行い陣容を大幅に拡大しました。中でもシテイは採用と配置転換により(前年同時期との比較では倍となる)1,500名ほどプラス増強しているほどです。
人材派遣会社はこうした大手銀行の動きを、香港の地域的な問題(反政府デモ&国家安全維持法(国安法))と世界的な問題(新型コロナウィルス感染症)の両面が、今年になってある一定の"落ち着き"を取り戻して来たと言う判断がそれぞれにあり、これらを重視したと言う見方を取っています。
また、こうしたミクロ的な視点(地域的な課題点)だけでなく、より大きな商流で香港を眺めた場合の大きな魅力と言うのが、従前からある中国と(中国がもたらす)ビジネスとの密接な繋がりを持っている点が挙げられます。
中国ビジネスは(政治面のドタバタはともかく)相も変わらず好調に推移しており、香港の果たす役割はこうした金融機関にとっても甚大な影響を与えています。その一例として上海及び深圳市場と香港市場を結ぶ相互乗り入れ制度はその成功例のひとつと言え、結果として今年第一四半期には資金の流れが過去最高記録したとのことです。またこれだけでなく、今年1月〜5月に中国本土系を中心とする企業が香港市場で上場をして調達した資金は、過去4年間の同期間の合計額を突破し、大中華圏のM&Aにおいては2018年以来の高水準となったとのこと。
こうした市場の勢いを感じさせる実績が次から次へと輩出する流れもあってか、当地の経済評論家や市場関係者などは今の香港を、新たな現実に"適応しつつある"と評価する者も出て参りました。
大手金融(投資銀行等)が採用に傾倒する背景と言うのはそうした実績から得る市場の拡張力を感じ取る位置に居るからなのかも知れないと思うと、ロジックとしては至極納得出来るものであると言えます。
さて、こうした動きが地盤を支えて行くことになる2021年以後の香港。
果たしてどうなるでしょうか?