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増加傾向を示す、香港富裕層の資産の行方とは?
更新日:2021年06月01日
一部を切り取って見たところで真実というものは見切れるものではありませんが、香港の環境下で起こっている現象というものは興味深いものがあります。
今年の3月中旬に英国のボリス・ジョンソン首相自らが発表したBNO(英国海外市民旅券)への申請者数が27,000件を突破したと言うものから、一般的には(人も資産も)香港からの脱出の動きに拍車がかかると考えられていましたが、その翌月の8日、米国大手銀行で香港でも多くに支店網を抱えるシティバンクが、富裕層の実態調査「香港千萬富翁調査報告2020(Hong Kong Affluent Study 2020)」を発表、結果的に香港で資産1,000万香港ドル(約1億4,000万円)を持つ資産家の数が過去最高となる51万5,000人に達することが分かったのです。
同調査の対象時期は2020年11月〜2021年1月と言うものですから、上述の英国BNOとは重ならないタイミングとはなりますが、然しながら、これは一考の価値のある統計データのひとつであると考えられなくもありません。
このデータの算出ベースとなったそうは香港在住の21歳から79歳までの4,000人に調査を行ったデータが元となっています。
それによると、香港全人口の8.7% (12人に1人)にあたる51万5,000人が1,000万香港ドルの資産を有しているとのことであり、前回実施の数値であった41万3,000人から何と10万人以上の増加を記録しました。
これら51万人強の富裕層各々の平均を捉えると、その金額は1,550万香港ドルとなり、これは前回調査(2019〜2020年)の1,700万香港ドルからは150万香港ドルほど減少したものとなりますが、それにしてもかなりの蓄財ぶりがこのデータから垣間見ることができます。
内容を性別単位で見た場合は、男性が54%、女性が46%、また年齢層で見ると、男性の平均年齢が60歳、女性は61歳となりました。尚、こうした資産家の中で、定職を持っていない方々は全体の60%であったとのことです。更にこの層を細かく見て行くと、管理層、専門家、専門家の関係者(看護士、保険代理人、各部門の主幹レベル)がそれぞれ12%、自営業が11%となっています。
では地域別に見るとどうなるでしょうか?富裕層の生活拠点を香港で分断して行くと、新界(New Territories)が19万9,000人、香港島(Hong Kong Island)が17万8,000人、九龍(Kowloon) が13万8,000人になったとのことです。
しかしながら、上記では2位に位置する香港島ではありますが、これに"人口密度"と言う要素を噛み合わせるとトップになり(5人に1人が1,000万香港ドル以上を保有する)、やはりそう言う面においては面目躍如と言ったところでしょうか?
実際、これに加える形で香港の18区別で分布具合を見て行くと、トップは東区(Eastern District)で19%、続いて南区(Southern District)が18%、中西区(Central & Western District)17%、湾仔(WanChai)が16%、九龍城(Kowloon City)が14%とトップ5のうち香港島がトップ4を占めたとのことです。
彼等の投資対象となる金融商品の傾向については、株が95%、ファンドが30%、外貨が14%、債券が12%、金が5%であり、結果、現在の資産内容と言うのは不動産が71%、現金とデポジットが15%、株が7%、基金と債券が5%、その他金融商品が3%でした。
こうしたデータから見えてくるひとつの"事実"と言うのは、在香港の富裕層と言うのは、まだこの香港と言う地域の価値を決して見捨てている訳ではなく、むしろ自由にやり取りできるマーケットの特性を最大に利用し、(株を中心とした)盤石の投資戦略を実践していると言うことです。
もちろん、それが1年〜2年の短期スパンなのか、それとも短期を超えた中長期となるのかは推し測れない部分ではありますが、現在のこの傾向(=富裕層の数が増加していると言う事実)が示すものと言うのは資産家であればあるほど、"腰が重い"と言う印象が色濃く残ります。
しかしながら、そんな彼等が予想する2021年の投資トレンドですが、不動産が今後1年で価格は7%〜15%上昇すると読んでおり、その中で全体の27%が海外についての不動産投資に"興味がある"と回答しています。
この数値は中国本土への不動産投資(14%)及び香港内での不動産投資(8%)の合計を上回る結果となった訳ですから、"腰が重い"と見られる彼等であっても今後の選択には多岐に渡るオプションを見ているのかも知れません。
実際にこれらを今年後半などに向けて実施したとなると、域内の資産流出の度合いは増加することになり、資産流動化→次のアクション、と言うものが次回の調査では"顔を出して来る"可能性はあります。
何れにしても、今後もその推移を見て行くと言うことは香港経済へのインパクトという観点からは肝要であると言えます。