昨今では日本の中小企業でも海外に拠点を構える会社も多くなって参りました。それは、90年代後半から拍車が掛かった中国市場への進出(香港経由)であったり、その後の"チャイナプラスワン"と言う、いわゆる、(中国の政治的圧力を危惧した)企業達が一種の「保険」的な意味合いで近隣アジア圏への進出を行うことによりリスク分散の体制を整えたりと、進出の形態というのもこの20年で随分と多角化・複雑化して参りました。
このように日本企業は、こうした形態の変遷を辿る過程において自社なりの経験値やノウハウも同時に積み上げて行っているのは事実ではありますが、一方では(ネットなどの)情報獲得のツールが多岐化した事により、現地に足を運ぶことによる調査や市況感を疎かにし、"未経験でも情報豊富"と言う、いわゆる"頭デッカチ"の状態でいきなり決断を下すような企業も最近では増えています。
本稿ではこうした企業が"最も陥り易い盲点"にフォーカスを当て、以下の2点を指摘することで事前に排除できる根本的な不要項目を特定し、その結果、より成功の確度が高く、かつ、実際の市場のニーズに合致した事業展開が期待できるスタンスをご紹介します。
1.財閥系や同業種との提携と言う"罠"
日本の中小企業は自分達より先に進出した大手得意先からの"勧誘"などをキッカケとして、受注を得る目的で進出を決定するのが常ですが、同時に収益基盤を強化することを理由として他の販路を現地で求めて行くものです。
その中で良くあるパターンとして挙げられるのは現地でのビジネスパートナーを得ると言うことになる訳ですが、この、「現地パートナーありき」の海外展開と言うのは、実はかなり慎重に考察する必要がある性質のものであると言えます。
例えば、それが地元の"財閥系企業"などとの提携となると、この事実だけで日本側はまるで不戦勝を得たかの如く"舞い上がってしまう"のが一般的ですが、これも多くの場合において(数年後には)期待するような成果が挙げられず提携解消の憂き目に遭うのが殆どです。
何故なら現地市場の実際の販売構造と言うものは、必ずしもその(業務提携した)財閥系企業が前面に出て"牛耳っている"と言うのではなく、むしろその下部に位置するディストリビューター(販売店)が実際のマーケットを動かしているケースが大半となるからです。
勿論、財閥系と組むと言うことは(目に見えない)安心感はある訳ですが、こうした企業の殆どは他の国の他の商品を擁する企業などとも提携していたりするのは常識ですので、必ずしも日本の中小企業の商品に対してプライオリティを置いている訳では無いと言う点にも注意を払う必要があります。
2.輸出型輸出ビジネスからの脱皮
ひと昔前と言うのは、中小企業様の有効なビジネス手段として自社商品をに日本の輸出商社、或いは対象とする国の輸入商社に任せることでビジネス展開を計っていた(所謂、「輸出型輸出ビジネス」)のが定石ではありましたが、現在では既に「現地生産&販売型ビジネス」に完全にシフトしている事実を直視する必要があります。
この面で日系企業は他国(特に欧米企業など)から非常に立ち遅れており、この点でのパラダイムシフトは絶対であると言えるでしょう。何故なら現地にこうした形で進出を行う恩恵と言うのは甚大(そのマーケットで一番ボリュームがあるとされる中間層を直にターゲットに出来る)であるからです。
勿論、物事には段階がありますので「輸出型輸出ビジネス」は初期段階ではどの企業にとっても必要なステップではありますが、そのマーケットで確固たる地位を確保することを念頭に置くような場合は、この"現地密着"型進出を実現させていくことは必要不可欠であると言えるでしょう。
残念ながら、昨今においても日本の企業の基本的なスタンスと言うのは、この2つのポイントを真正面から見据えて計画を立てる気概が余りなく、それでいて商品・サービスが"世界一である"と言うプライドに囚われています。
進出国、特にアジアの消費者の価値観などはこうした"オーバースペック"な日本製品よりも安価で身近にある製品を重視する傾向があるのは否めず、これを直視できない日本企業が"一敗地に塗れる"と言うのは、ある意味必然であると帰結しても良いかも知れません。
進出を"成功裏に終わらせる"、と言う観点で必要なスタンスと言うのはこういう面での柔軟さであり、今後、海外に打って出る日本企業は如何に"市場に合う商品"の提供が出来るか否か?に掛かっていると言えます。ゆえに、それらの視点をベースとした計画を立て、愚直に実行してゆく姿勢と言うのが今の日本企業に求められる1番の要素と言っても過言ではありません。