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「特許権」に関する移転価格と香港税務の留意事項
更新日:2021年09月30日
香港への進出の方法として挙げられる典型的な事例は、先ず香港に子会社を作り、そして中国に生産拠点を置く、と言うものがあります。これは俗に言う"華南型ビジネス"である訳ですが、課税の観点からこの構造を見た場合、注意しなくてはならない"軸"と言うのは、実はこの香港-中国間のものではなく、むしろ日本-香港間のものであると言うことです。
日本は国として課税権を保持する税体系を持っている為(=全世界課税)、こうしたビジネスのストラクチャーではあらゆるところに目を配って置かなくてはなりません。この構造の場合、香港(子会社)にとって"親"である日本の親会社が存在している形になるので、事業実態をしっかりと作り込まない場合は即、日本の税率が適用する形になります。従って、視点として常に確保しなくてはならない部分というのは日本から見た税制を最初に置き、その次に香港から見た税制を考える、というスタンスです。
両者の複雑度から税制を俯瞰すると、香港の税制というのは非常にシンプな仕組みであると言えるでしょう。また税率自体は非常に低く、企業や個人にとっては(住宅費用、車両購入費などの呆れるほどの高さは置いておいて)まさにパラダイスにいるような環境が整っています。
しかしながら、こうした香港の税制で一点だけ注意を要する項目が存在していることをご存知でしょうか?
それは、親会社の持つ権利を子会社が海外で運用・使用する際に行われる特許使用権(ロイヤルティー)に関してです。
特に香港は、香港法人(本社から見た子会社)にとっての"子会社"となる中国製造拠点(本社から見た孫会社)もあるため、慎重に取り扱わなくてなりません。この場合、ロイヤルティー絡みで最初に注意する必要があるのは「移転価格」です。移転価格と言うのは、例えば棚卸し資産等の「有形資産」取引だけでなく、(今回取り上げている)"特許権の使用"についても無形固定資産としてその「適用対象」として入って来ると言う部分があるので注意が必要です。
日本の親会社が海外の子会社にその技術やノウハウ等を使用させる場合、通常、日本親会社はロイヤルティーを回収していると考えられるのが普通ですが、その理由はロイヤルティーの位置付けと言うのが、課税的には海外子会社の超過利益の回収に当たるからなのです。
これに関わる独立企業間価格の決め方については以下の2つが代表的です。
(1)ロイヤルティーの水準を直接見る方法
(2)ロイヤルティーに関する海外子会社の営業利益を見る方法
まず(1)においては、同業他社間でのロイヤルティーのデータベースから比較対象をピックアップし、それを持って独立企業間価格設定の裏付けとする方法となり、(2)は海外子会社の営業利益を見る方法として営業利益法(TNMM)を使用する(=取引毎に営業利益の水準を比較する)ことで算出するものです。
以上、こうした視点と計算方法が日本の税務当局から見た移転価税制の適用上の論点ですが、逆に海外製造子会社の営業利益率が低過ぎれば海外税務の当局にロイヤルティーの高さを問題視されてしまう場合もあり、ロイヤルティーの損金性を否認にされる可能性も横たわります。
香港では法人税率の70%を削った4.95%がロイヤリティーに関わる税率ですから、(大したことではない...)などと高を括ると、後々大きな問題に発展する可能性があることも注意して置かなくてはならない点であると言えるでしょう。