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「北部計画」とは一体何なのか?
更新日:2021年11月05日
香港特別行政区のキャリー・ラム行政長官は、10月6日、興味深い都市開発計画を発表することになりました。それは、「北部都市圏発展計画」(以下、「北部計画」)と呼ばれるもので、今まで中国政府自身の制限によって開発が進んでいなかった香港の北部と、それに隣接する中国本土の深圳とを"一体化"することで大型の都市開発を行うと言うものです。今回はこの開発計画の概要をご案内します。
この都市圏には約90万世帯、人数的には200万〜250万人が居住出来る住宅を開発する予定となっており、これは香港の人口(約750万人)の3割近くに相当する大型ベットタウン構想です。この都市圏が標榜するテーマと言うのは「双城三圏」、すなわち"Twin Cities, Three Circles"(=2つの都市、3つの環)というスローガンに表されており、今後の香港の居住環境を劇的に改善する可能性を秘めたプロジェクトになります。
勿論、言うまでもなく、この中国語が表す"2つの都市"と言うのは香港と深圳のことになります。また、それに続く、"3つの環"と言うのは(広義の意味で)この開発対象地区全体を指しています。意外なように思われる向きもありますが、香港の地理的な特徴と言うのは都市開発を行う上で非常に難しい山地、又は急斜面等で覆われているエリアが多く、更には(香港政府による)開発禁止区域等もある為、居住可能な面積と言うのが全域の僅か20%程度に過ぎないと言うことが挙げられます。
こうしたことにより、想像以上に狭い範囲に住宅やオフィスが密集してしまう状況が長年に渡って発生しており、結果的に不名誉にも世界で一番、"居住者の経済的負担が大きい都市"と言う悪評がついて回ることになりました。
従って「不動産」という議題を香港人が論じる際には、その多くが"社会的な問題"として論じられるケースが多く、恒久的なボトルネックと化しています。
対外的には香港はあの数多くの摩天楼が象徴しているように、アジアに於ける圧倒的な近代都市との評価や印象が先に来ます。然しながら一方では、当地に住む市民生活の目線でこの都市を見てしまうと、「家賃」捻出の為に多くの苦労や不満が充満しているのは致し方なく、その為マイホーム購入と言う夢を諦めざるを得ない市民は後を断ちません。
こうした状況を打開すべく、香港政府は、公営住宅の建設や新規開発中の開放など、今までにおいても効果的なプランいくつかを実施しては来ましたが、(税収確保などの関係もあり)その取り組みに関しては、総じて、多くの妥協が必要だったと言うのは否めません。
他方、今回のプランの"相方"である深圳と言う都市は、この40年間でその人口が香港の3倍弱となる約2000万人規模の大都市へと発展し、現在では中国を代表する電子産業、ハイテクイノベーションの中心地として知られるようになっています。
何にせよ、この「北部計画」下に置いては、上述の香港の住宅事情を相当なレベルで改善をするだけでなく、新規産業の育成を目的とした研究都市の建設や産業振興と言う面でも画期的な試みとなりそうです。数値目標として60万人超の新規雇用を産み出し、行政上の運用も大きく変わるとのこと。例えば深圳の産業はハイテク産業、特に今まで製造業が中心ではありましたが、今後はより一層、金融やリーガルサービスの成長を後押しするとしています。
ご存知の通り、このような分野はもともと香港の"お家芸"とも言える産業領域であり、こうした分野に香港企業や香港人材を誘致するための受け皿は既に中国に存在すると言うことです。又、深圳には「深圳前海自由経済貿易区」と言った貿易区内が存在し、ここでは会社設立の規制や会社法が香港のシステムに準じた形で大幅に緩和・改善される見込みであり、更には香港人が起業するための経済的な支援、香港から前海までの無料バスの運行などのインフラ面での取組みも積極的に進められて来ています。
何れにせよ、「一帯一路」の枠組みを担う「大湾区」(The Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area)の中でも大きな役割が与えられる香港と深圳の2大都市。その中でこの2つが手に手を取り合うことで進める「北部計画」はより一層の繁栄を当地に呼び込むことは最早"既定路線"のひとつであると言え、その躍進をウォッチして行く価値はありそうです。