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シンガポールが香港に取って変わる為にどうしても"必要なもの"とは?
更新日:2022年01月15日
昨年末に行われた香港立法会の"茶番"選挙劇は、当地の"窮状"を再び世間に晒す形となりました。結果として実に90議席中89席が親中派で占有される形となったこの選挙は、同時に民意を計るリトマス紙的な意味合いである「投票率」において、過去最低(30.2%)を記録するなど、まさに官民対立の図式を色濃く反映するものとなりました。
今更ながらではありますが、現在の香港の状態と言うのは、こと政治面では中国が圧倒的な権力を持って想いのままに当地をコントロールし始めていますが、一方では、こと経済面に軸足を置いてこの市場を眺めて見ると、意外なほどその圧力は"マイルド"な表現に止まっており、むしろ目立ったものが表出していないと言うのが現状と言えます。
一体何故、政治面と経済面はここまでその現れが極端に乖離しているのでしょうか?
諸説では、中国が(自国通貨である)人民元を国際通貨=ハードカレンシー化させることを望みつつも、他方では完全なるコントロール体制を維持したい、と言う相反するジレンマを抱えているが故、思い切った動きが出来きれていないと言う裏事情があると言われています。
この状況を換言すると、「人民元」と言う通貨は本質的に世界経済市場において鎬(しのぎ)を削る米ドルや日本円と言った通貨のような『信用』を得ることを必要とせず、その代わりに(元々そうであった)「香港ドル」が人民元が纏うこのウィークポイントを補うような役割を補完すると言う、言わば"デュアル・スタンダード"を設定したと言うことなのです。
但しよくよくその内容を見て行くと、「香港ドル」が担うメリットと言うのは、この通貨単体のものではないのは明らかです。もっと率直に言うと、この通貨自体が(世界最強通貨である)米ドルとのペッグを敷いていると言う点が唯一かつ最大の利点であると言うことです。
これにより、中国は自国管理用に人民元を使用しながらして同時に(海外マターについての)利便性と信用力を香港ドルで"確保する"と言うスタイルを実践できると言う訳です。
従って、(表面的には)対立の図式を強く打ち出す米中間ではありますが、お互いが"急所"と思う箇所(米国→中国・香港:通貨に対する制裁、中国・香港→米国:米国企業に対する利権剥奪などの制裁)については"手心を与えている"と言うのもこの断面のひとつと言えるのです。
ではこうした関係により膠着状態が継続している香港に対して外から眺める形になるシンガポールは一体何を狙っているのでしょうか?
それはズバリ、香港のアセットと評される"ネットワーク"です。厳然たる事実として香港は過去100年以上に渡って蓄積されて来た『経済の繋がりと流れ』がその根底に存在し、ここにはヒト・モノ・カネの何れかが絡み合う形で集積・構成されています。華僑の一部が渡って経済の背骨を作ったシンガポールとは、その土台自体が全く違うのです。
これに加えて、(世界最大の経済圏を標榜する)中国に物理的に近い香港は、中国大陸系のルートを独占出来る有利なポジションで経済を発展させて来ました。こうした点の数々が、シンガポールにとっては"羨望の的"であったと言えるのは間違いないことですん。
しかしながら、官が先導する形となってしまった現在と未来の香港の姿と言うのは、シンガポールにとっては千載一遇の機会が訪れたと言っても良いでしょう。今後、10数年の間においては(中国型民主主義のもとで新たな立ち位置になることが濃厚となる)香港が、いつまでその魅力を世界に発信できるかどうかが不透明となることは濃厚です。そう考えるとシンガポールが目指すところと言うのは、まさに香港の"心臓部"となるこのアセット奪取がより一層現実味を帯びる形になるかも知れません。
現時点で分からない点があるとすれば、それが果たしてどのタイミングで表出して来るものなのか?と言うだけの話かもしれません。