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地震によって思い起こされる、香港の"地震無縁"の背景
更新日:2022年03月29日
3月16日、まるでかつての東日本大震災を彷彿せるかのような規模の地震が再び日本の東北地方を襲いました。この地震がヒットした当日の夜は、都内であってもそれは"大きな揺れ"として実感できる程のものであり、交通機関は安全確認の為一斉にストップ、まさに「都市機能」が麻痺した状況へと陥ってしまいました。震源地から遠く離れた東京ですらこんな有様であった訳ですから、最寄りとなる東北現地の記録した"震度6強"のレベルと言うのは言わば大災害の一歩手前の状況に陥っていたものと言えることでしょう。
このように日本は地震を筆頭とした様々な"天災"が一年を通してで起こる訳ですが、香港はと言うとこうしたこととは無縁の位置に居るかのようにも見えます(但し台風を除く)。特に地震に関しては、決して大袈裟ではなくここに住む人々の殆どが異口同音に"(香港)には地震がない"と言い切るほどです。
ところがそんな香港に、先日の3月14日、"体感出来るに足る"レベルの地震が発生しました。
そのエネルギーはマグニチュード4.1で、震源地は中国広東省の東部沿岸にある恵州市の沖で発生したものが原因であるとのことです。
ここで再び繰り返す形となる訳ですが、香港は"地震が発生しない"と言う神話が永らく存在していました。
その理由はそれなりの根拠によって裏付けされています。例えば香港は地盤自体がもともと"非常に硬い"とされている地域であり、仮に計測される"揺れ"があったとしても、その多くは台湾や中国内陸部(今回の地震もこれに該当します)と言った他の国や地域からのものであり、"余波"を被る形で記録されるものばかりであるから、というものです。故に香港が震源の震源地にとなることで「直下型地震」が起こってしまうと言う可能性は"極めて低い"とする専門家や居民が多いはその為でもあるのです。
また、上記に加えて香港のロケーションと構造的な優位性を与えられている点も見逃せません。
例えば中央アジアから中国のチベット、雲南省、四川省などを通じるアルプス・ヒマラヤ地震帯と言ったところは"造山帯"、或いはチリ、北米西部、日本、台湾、フィリピン、インドネシア、或いはニュージーランドと言った場所のことを環太平洋地震帯(所謂、造山帯)等と呼ばれていますが、いずれもそうした国々は例外なく活発な火山活動、地震発生地帯(新期造山帯とも言われています)がその背骨に流れていることで知られています。一方、香港はどうかと言うと丁度そうしたラインから外れている"古期造山帯"や"安定陸塊"と呼ばれているところに位置しており、こんな地形的な利点が(火山活動を誘引とした)地震発生につながらないと言う結論へと結び付くわけなのです。
しかしながら、全くそうした"揺れ"の類いがない、いわゆる、100%の確率で『無地震地域』と言い切ることが出来るのか?と言うと、厳密にはそれも間違っています。
実は地震とは全く無縁のように見える香港でも、一年の間では(数回程度ではありますが)地震が発生し、また計測もされています。記録としてご紹介すると1979年から2018年までの間の中で"肌で感じられる"程度、日本の地震の尺度から言うとせいぜい震度1くらいの軽度な振動のレベルであれば、実に75回もあったとのことです。
つまり、年平均で2回くらいのペースで"地震"は香港においても発生していると言うことになる訳で、結論を言えば、それらは殆ど体感すら出来ないレベルの揺れに過ぎないが故、香港市民達が"地震なし"と胸を張るのも理解できます。またそれ以外に起こる"揺れ"と言うのは上述のように広東省や台湾と言った地域や国が揺れた"余波"を被るだけのものであり、これはその数にカウントするべきかどうか?と言う判断には多少の躊躇いを感じるのは無理もありません。
では将来についてどうなのか?と言う視点でこのテーマを取り扱う場合は、(若干ではありますが)不安要素があるのは否めません。それは、例え理想的な香港のロケーションであったとしても、火山活動やプレート移動とは関係のない活断層が原因の地震も場合によっては存在しており、これが起爆装置となる可能性もあるからです。
事実としてこのタイプの活断層と言うのは、広東省から香港に掛けて流れる北西部に繋がっていると言うことであり、そうした面を材料として考えて行くと、未来のいつかの時点で香港自体が"震源地"となって爆発する可能性があるのは否めません。
よって、こうした地震の震源地となる可能性を将来に内包しつつも、近年ではビルも近代化による耐震機能の充実面もあるため、香港は(安全上の基準においては)既に次のステップへと入っていると評価をしても良いでしょう。備えあれば憂いなし、ではないですが、無地震地域での地震準備というのも面白い切り口の一つと言えるかも知れません。今後はこんな局面も、耐震に関して一つのトピック(焦点)となって行く可能性もあり、香港はその面でのリーダー候補の一拠点と言えるのではないでしょうか。