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最早"レームダック"?香港の行政長官職の立ち位置
更新日:2022年03月15日
先般の政府発表によりますと、香港の行政長官選挙は(従来予定されていた)今年の3月から5月へと延期されることになりました。これは香港で(突然爆発的な勢力を増すことになってしまった)新型コロナウィルス感染症への対応措置を優先する為の措置とのことですが、本稿ではこれを契機として改めてこの香港のトップである行政長官選任の為の選挙とその仕組み、また歴史について振り返って見たいと思います。
香港の行政長官選出のプロセスというものは、簡潔に言うと、「香港基本法」の精神と規定に基づいて選挙委員会より選出された後に中国の中央人民政府(=国務院)によって承認されると言うプロセスを踏みます。
勿論、行政長官選任に関して重要な影響を与えるこの「選挙会」の選挙権というのは(香港居民全員が直接投票することで決定する訳ではない為)、一種の"間接"選挙から生まれるものだと言っても差し支えはありません。また、行政長官選に立候補をする候補者は、事前に100名以上の選挙委員からの推薦を得て置かなくてはならず、そこでも有効投票の過半数を得ることが必要となって来ます。
しかしながら、こうして行政長官職への当選を果たした者であったとしても、その後、この立候補者は中国当局(国務院)からの最終承認が必要であり、ここで不適格として烙印を押されてしまうと、選挙のやり直しが行われると言うプロセスを踏むことになります。
こうした構造的な問題を抱えているが故に、多くの香港人達は本選挙制度に対して最初から大きな不満を抱いていたと言うのも十分頷ける話です。事実として、香港特別行政区基本法は、2017年以降、(それまでの間接選挙ではなく)直接的な選挙=「普通選挙」の実証の可能性を示唆してはいましたが、2014年の全人代(中国全国民代表大会)で「"2017年以降"とは2017年に実施することの意味ではない」との解釈を改めて発表することで市民の期待に釘を刺し、これがその年の「雨傘運動」へと繋がって行ったのは有名な話ではあります。
何れにしても、その後の国家安全維持法による壊滅的な自由の破壊によって最早香港における行政長官職の役割と言うのは、完全な北京の"傀儡"と化してしまった言えるでしょう。逆に中国的な見方からすると香港が享受していた自治権の執行自体が異常な話であり、そうしたものは"目障りなもの"としかその目には映っていなかったのは明らかです。
現職の行政長官である林鄭月娥(Carrie Lam)振る舞いや解釈を見ていても、それは単なる中央の"代弁者"の位置に過ぎず、その姿勢は日に日に色合いを濃くして行っているようにすら見えます。
何れにしても、香港の行政長官の変遷から見えることと言うのは、きっかけとして選挙システムの仕組み自体に欠陥があったことに始まり、その是正が叶わぬまま中国に押し切られてしまったと言う結論に辿り着きます。この流れに楔を打つことが今は不可能であるタスクに見えてしまうのは、大きくなり過ぎてしまった中国の力ゆえのものです。
参考;香港特別行政区の歴代行政長官
1:董建華(Tung Chee Hwa)
・香港返還による特別行政区発足・成立とともに、初代行政長官に就任。しかしながら再選後(第二期)、健康上の理由で任期途中で辞任。
-代行:曽蔭権(Donald Tsang)
・董建華の辞任に伴って香港基本法の規定に基づき政務司司長の曽蔭権が行政長官代行に就任する。そのご、後任の行政長官職に立候補をする為に政務司司長職と行政長官代行職を辞任。
-代行:唐英年(HenryTang)
・曽蔭権が行政長官職代行を辞任したことに伴い、代行職の代行として就任。
2:曽蔭権(Donald Tsang)
・董建華の辞任に伴う補欠選挙にて選出。全人代の基本法解釈により、前長官の残任期間のみの期間に留まる。その後、再選し、正式に5年の任期を全う。
3:梁振英(Leung Chun-Ying)
・2017年6月30日に任期を満了。
4:林鄭月娥(Carrie Lam)
・現職。現在は再選を目指す形になっているが、コロナ禍を抑制出来ない状況になっていることもあり、中国政府内部では継続の可否が問われていると見られる。