香港の現職行政長官である林鄭月娥(Carrie Lam)氏は4月4日、翌月に予定されている次期行政長官選挙への不出馬を表明しました。香港のトップであるこの『行政長官職』と言うのは最大で2期まで務めることが可能(勿論、再選のための選挙は必要ですが)であり、その意味でも月娥氏はその権利を有していた訳ですが、この段階になり自ら続投を辞することにしたと言う形になっています。
その後、舞台裏でのゴタゴタがあったのでしょうか(?)、立候補として出てくることになったのは、現香港政府のナンバー2である李家超(John Lee)氏のみであり、今回の"出来レース的"展開に早くも域内では白けムードが漂っている状況です。
実際のところ、今や香港を牛耳るのは香港政府ではなく北京の中央政府、即ちそれはCCPであり習近平である為、例え今回の選挙で林鄭月娥氏が再選しようが李家超氏が就任しようが大勢に影響はない訳ですが、今回の"人事"と言うのは、やはり林鄭月娥氏が行ったこの数年間のリーダーシップの欠如に対してCCPが良い評価を与えていなかったと言う側面と、月娥氏自身も(香港および世界の政治・経済において)最も負荷が掛かった期間での迷走ぶりを痛感していた為、再選を行うための意欲自体がすっかり萎えてしまっていたのではないかと思われます。
振り返って見ると、彼女の普通選挙制度が反故にされた香港市民の怒りが沸点に到達し、その余韻が醒めやらないタイミングで発生した「逃亡犯条例」でのやり取りや、香港民主を決定的に潰すことになった「香港国家安全維持法」承認過程で発生した弾圧の指示、そしてコロナ禍では(一時的に失地回復の兆しが見えていたのも束の間)、オミクロン株発生に対して全く効果的な手が打てなかった等々...、市民に"寄り添う"政治どころか完全に"置いてきぼり"にすることで中央政府の傀儡となることを受け入れた政策ばかりを実施して来たのですから、彼女自身が先行きの見通しに対して確固たる展望を描けなかったのが実情だったと言えるでしょう。
何れにしても、林鄭月娥氏は退任し、これからの香港を李家超氏に託すことに(ほぼ)なる訳ですが、同氏のキャリアを見ると国際ビジネスの拠点である当地の強みが今後どこまで推進して行くことが出来るのか?と言う点には一抹の不安が漂います。何故なら李氏の出身母体がそもそも香港警察であり、2019年の逃亡犯条例から起こった反政府デモの鎮圧などの功績が認められることで出世をして来たと言う経歴があるからです。
更にアメリカの"制裁対象リスト"にも名を連ねるなど、(我が国を含めた)西側諸国にとってはかなり構えた上での交渉を行わなくてはならない人物になる可能性を含んでいます。これは、逆に言うと、習近平の香港政策について明確な方向性を示唆する人事と言えるかも知れません。
それは、「経済」より、「統制」。
2022年5月以降の香港は、こうした中央の思惑の中で(今までとは)異なる方向性がより一層表出する地域になって行くことになっても不思議ではありません。李家超氏の行政長官就任は、その第一歩となることが濃厚ではないでしょうか?