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上海も深圳も真似出来ない、香港が"香港たる"所以とは?
更新日:2022年07月22日
林鄭月娥行政長官の任期が6月末日で切れ、翌7月1日から李超家氏が(これからの5年間の任期を前提として)新しい行政長官職に就任することになりました。しかしながら、ここでメディアの注目を一身に浴びていたのは、この日正式に誕生したこの新行政長官ではなく、中国北京からこの式典を訪れた"本当のボス"である習近平国家主席であったことは言うまでもありません。習氏は演説の中で中国の政治体制を擁護しつつ、「一国二制度」の長期的な繁栄と「真の民主主義」の制定は、中国への返還後に実現したと自画自賛する内容を発信しました。
度々、このBlogでも触れているテーマではありますが、香港に対する中国の"介入"具合というのは、「人権蹂躙」と言う強い言葉にあるような激しい圧力が印象として我々の目には映っています。しかしながら、内情を冷静に見て行くと、実はそれはあくまで「政治面だけ」であると言うことが分かります。
経済的側面の動きで顕著なのは、むしろ我が国を含めた西側企業達の方であって、香港(や北京)がそれらの企業に対して何らかの圧力を掛けていると言うものではありません。中国政府としても(上述の習近平国家主席の言葉をなぞると)「一国二制度」から来る"長期的な繁栄"を香港にもたらす為には従来通りの施策の継続が最も効果的な手法であることを強く自覚しており、ゆえにその制度を政治的な悲願の為だけに破壊してしまうようなことを行うのは自滅以外何物でもありません。
更に一歩深読みをすると、中国としても上海や深圳などを利用して、それら主要都市に香港と同等の機能を纏えるようにすることが中々出来ていないと言う"裏事情"も存在しています。これは実際にあった話ですが、今から遡ること数年前の2019年の夏、香港でデモ隊が国際空港を占拠した際、実はこの動きを危惧した中国の金融当局がすぐさま(秘密裏に)北京で緊急の会合を開き、金融や法律の専門家と共に上海を香港の代替都市として国際金融センター化できるかどうかの話し合いを行いました。そしてこの会合の結論としては、当初の期待とは裏腹に、中国は殆ど"何も出来ない"と言うことが判明しただけでなく、仮に(CCPなどの介入を受けないと言う前提で)「特区」を設置したとしても、香港の水準を達成するには余りにもハードルが高いと言うことが明らかになったのです。
具体的な事例としてあげると、先ず中国本土には厳然としたルール(例:資本規制や高い法人税)がもともと存在していることであったり、世界の基軸通貨である米ドルの"後盾"を全く持たない人民元では取引を躊躇したりキャンセルする企業や国が多数存在すること、また更に、それらを前提としてオペレーションを行う人材達が香港のような世界観と語学力、また経験を有しておらず、こうした(重要と考えられる様々なポイントにおいて)上海はことごとく"及第点には届かない"と言うダメ出しを喰らったと言う訳です。
そうしたことを遠因としたのでしょうか(?)、香港の金融業界での認識というのもこうしたことに合わせているかのような、むしろ"泰然"としている感すら見受けられます。何故ならば、北京が圧力を掛けるのはあくまで言論に関する統制の部分であり(それも政治&CCPに関するものだけに限定されている)、金融ルールについてはCCPの資金ルートが香港を介在する面が多々ある為、その生命線を刺激したり破壊するのは"避けたい"と言う躊躇が中国側にあることを知っているからです。
何れにしても、香港の状況を俯瞰して行くと、一見、現在は"砂漠"のように見える印象が濃いとは言えます。ただ、その中にある「香港」と言う市場は決して「底なし沼」のような体(てい)なのではなく、むしろ乾いた喉を潤す「オアシス」のような存在となっている、と形容しても良いかも知れません。政治的な動乱が激しく起こったこの数年間の香港で、在港の金融機関が依然として多くの人材を募集している事実を鑑みるとまだまだ香港にはその期待に応えるだけの"蓄え"があると見ても良いと言えるでしょう。