昨年のことになりますが、欧米のエコノミスト&為替ストラテジストであるエミン・ユルマズ氏が大変興味深い記事を発表しました。同氏の視点では、"今後香港は米中覇権争いの余波を喰らうことで没落し、その代替都市として日本の東京が金融・貿易両面のハブとなる"と言う内容のものです。
仮に同氏がこれを「シンガポール」と言うのであれば誰ひとりとしてそれを驚く人間は存在しなさそうにはなりますが、ここで敢えて「東京」を出して来るところがこの論説の根拠を探りたいと言う欲求をそそられます。
ご存知の通り、日本は既得権益者の国です。社会のどの層を切り取ってもそこには複雑に絡む利権が存在している為、抜本的な構造改革が出来ないと言うのがこの国の最大・最悪の膿の部分と言っても良い訳ですが、そうしたことを踏まえて本件を眺めて見ると一体どのような根拠をその発言の拠り所としているのでしょうか?
エミン氏は以下に挙げる2つの理由をベースとして持論の展開を図っています。
1)ある"特定の土地"の地価が上昇線を描いている
ここで言う"特定の土地"と言うのは日本橋兜町エリアのことです。曰く2016年11月以降、三菱地所や三井不動産と言った大手不動産会社の四季報チャートとこの兜町近辺の不動産を多数所有している平和不動産の値動きと言うものが真逆に近い動き(三菱&三井は下降線であり、平和は上昇線)を示していました。
実はこの兜町と言う場所には東京証券取引所が所在しており、故に何らかの"変化"が近い将来に顕在化するのではないか?と言う推測が働きました。因みに平和不動産の株価は前述の上昇のキッカケとなった2016年後半は、『国際金融都市・東京』の懇談会が発足したタイミングとも一致しており、故に国際金融センターの機能が香港から東京に移動するのではないか?と言う噂が湧き上がったと言う訳です。
2)他の候補地(国)であってはならない理由の存在
仮に香港の国際金融センターに取って替われる可能性が今一番あるのはどこか?と問われたとしたならば、大抵の金融業者の人間は(アジアでは)「シンガポール」と答えるのが妥当です。
しかしながら、シンガポールと言う国は米国をリーダーとする自由主義社会国家達からするとやはり"中華圏の国"と捉える向きがあるのは否定出来ないこと(香港も今では同様)と、地理的には実はアメリカから最も遠い国の一つであることを忘れてはなりません。
つまり、万が一、何か不測な事態が発生したとした場合、資金やシステムをプロテクトするにはやはりこの「距離」と言う課題はひとつの足枷となるのは言及するまでも無いことでしょう。
何れにしても、中国(や香港)と言う国(地域)はそれを牛耳る共産党の考えひとつで明日にでも国内にある外国資本の凍結をすることが可能であると言うことを前提に考えると、米国や英国と言う西側連合国に取っては(香港がほぼ陥落してしまった現在においては)アジアで彼等にとって信用に足る市場を擁する国の存在が必要です。
そうなると、米ドルやユーロに継ぐ形で強いカレンシーの円を持つ日本と言う国が、そしてその日本の最大の都市である東京と言う選択肢が、欧米にとって1番安心出来る場所となって行くことは明らかです。
勿論、日本が抱える様々な課題(①厳しい税制、②外国人の流入の少なさ、③英語力の低さ、等)は依然として解決する段階ではない為、こうした論説が実現に漕ぎ着けるのは簡単な話ではありませんが、日本の国力が衰退の一途を辿っている現在の状況を考えると、こうした話は国の総力を結集してでも実現させる必要があるテーマであることは間違いありません。