日本で"TKG"と言うと卵かけご飯を意味する訳ですが、どうやら昨今の香港人の食卓においてもこの単語がかなり人気になって来ているようです。それは単純に言って、彼ら香港人が日本人よろしく、卵を生で食べると言うことを受け入れつつあるからです。
一般的に言って、それまでの香港では卵を生の状態で食することと言うのが(亜熱帯地域に位置することもあることや卵の質そのものにも課題が残っていたこともあり)中々容易に受け入れられないコンセプトであり、習慣ではありませんでした。
実際のところ、現在でもその考えは依然として根強く残っているのは事実ではありますが、どうやらこの面に対する先入観と言うものが日本からの高品質な卵のお陰で(静かにではありますが)徐々に変化を起こしつつあるようです。
事実としてご紹介すると日本から香港への卵(鶏卵)の輸出実績はここ数年飛躍的に増加しました。日本養鶏協会のデータでは、昨年の輸出量と言うのはコロナ禍で苦慮していた背景にも関わらず、前年比3割増の約2万8,250トンとなったとのことであり、もっと広いスパン(過去3年)で評価すると輸出量自体が何とコロナ発症の前の年の3.3倍にまでの伸びを記録することになっているのです。
それを個数ベースで算出すると輸出された卵の数と言うのは実に4億個余りにまでのぼり、これらが(日本食が大好きな)香港人達の胃袋の中に収まったと言う訳です。
もともと香港と言う地域は2020年までの16年間、連続で世界の国と地域の中で日本の農林水産物・食品の輸出先としてナンバーワンとなるほどの、言わば、"日本食LOVE"が顕著なマーケットです。これに加えて香港人は日本に訪れる回数でも常にトップクラスに位置していることもあり、こうしたことが日本の食材人気を煽っている理由を形作ってく来ました。
また、去る2月3日に農林水産省が発表した統計結果によると、(昨年の実績として)200倍近い人口を誇る中国本土の日本食材の輸入実績(2,783億円)に次ぎ、香港は2位となる2,086億円を叩き出したのですからこれはまさに「驚愕」という表現しか思い当たる言葉が見つかりません。そして、この膨大な輸出量を構成する数々の品目の中においても鶏卵は占有率を高めて来ている点も見逃せない事でしょう。
ちなみに従来の食品目の主役達と言うのは日本酒や牛肉(和牛)、或いは海産物であるホタテやナマコと言ったものが上位に位置付けられて来ていましたが、ここでこの鶏卵が3年前の2019年頃から急増し始め、2022年にはとうとう80億円弱まで占有することになりました。
それまでの香港では、こと「卵」と言えば、中国産やその他米国、タイ産と言った産地からの輸入が多くを占めていました。しかしながら、これらの国々からの鶏卵価格の上昇が止められなくなって来たことと、新型コロナウィルスの蔓延によって発生した香港政府が敢行した各種規制(輸出入)の強化、また物流手段の混乱と言った複数の要因が重なったことにより(それまで価格帯で勝負にならなかった)日本産の需要が増大→評価の見直しが起こることで、当地の鶏卵販売のマーケットである種の"逆転現象"が発生したと言う事です(統計実績:2012年の香港の鶏卵市場でにおける日本産が占める輸出個数は1千万個余り、2022年の輸出個数は4億1315万個)。
こうした経済的な要因が香港人の食生活の中にもある種の"変化"を後押しする切っ掛けになったのでしょうか(?)或いはもともとある日本への憧憬からなのでしょうか(?)、今では日本の卵が大量にマーケットに進出した恩恵ゆえ、彼等の食生活自体にもある種の"日本化"が進行して来ていると言うのは十分あり得る話であると言えるでしょう。純粋に品質の鮮度を楽しむ日本食の根本を鑑みるとTKG(卵かけご飯)が当地で何気に流行り始めて来たと言うのはむしろ何ら不思議な事象ではなさそうです。
勿論、我々日本人としては彼等のような外国人が日本のソウルフードの一つである鶏卵使用のTKGを愛してくれると言うのは、やはり何気に嬉しい事のひとつであるのは間違いありません。