今回発表となった香港政府の次年度予算(案)は、近年のものと比較して明確な違いが存在していました。それは、過去が当時"未曾有"と称された新型コロナウィルス感染症下に於ける経済への打撃を考慮に入れたものであったことであり、今回のそれと言うのは(多少の"折り込み"はあったにせよ)、コロナ禍からの"脱却"を示唆したものであった点があります。ただ同時にその内容を細かく見て行くと、香港の今後の政策上の課題と言う部分が"明確に見えて来た"と言うものになりました。
ではそうした点を踏まえた上で、先ずは全体的な歳入と歳出のバランスを見て行くことにしましょう。
2023−24年度の歳入についてはその前年度の歳入水準を考慮に入れた為、一般歳入と政府債券発行の合計額としてやや保守的な7,074億香港ドルとなり、こちらがベースとなって当該年度の経済を廻して行くとのことのようです。しかしながら、その年度に予定されている歳出額(後述)については7,610億香港ドルまで膨れ上がることになる為、当地のその年度の財政的結果については536億香港ドルのマイナス(=赤字)として着地する模様とのことです。
但し、そのマイナス分を補うもと言うのが(それまで積み上げて来ていた)「財政備蓄」となり、この備蓄額である8,173億香港ドルから上述のマイナス分を引くことで当該年度を乗り切ることとしています。
ちなみにこのマイナストレンドと言うのはこの2023−24年度が最終と設定しており、2024-25年度からは歳入が歳出を上回ると言う健全なキャッシュフローを確保→力強い回復トレンドが見込まれるとのことです。
さて、次に政府方針の中での"力点"を表す指標=歳出の"振り分け具合"はどのようになっているのでしょう?
産業分野別に各々を見て行くと、振り分けと言うのは以下の通りになっています。
社会福利=1,290億香港ドル、衛生=1,248億香港ドル、教育=1,147億香港ドル、インフラ整備=887億香港ドル、経済=705億香港ドル、保安=660億香港ドル、環境・食物=466億香港ドル、住宅=79億香港ドルと言う順位になっており、トップ3である社会福利、衛生、教育を合わせると全体の半分弱を占めるものとなります。
そしてその中でも1位を取る形になった「社会福利」はそれまでトップであった衛生(理由:コロナ対策)を追い抜く形となりました。その理由はと言うと、これは当地の中で既に顕在・深刻化して来ている少子高齢化問題への対処です。この予算組みを見るだけで政府筋が如何にこのテーマについて深刻に捉えているのかが伝わってきますし、ここで香港が抱えている課題の中心と言うものが"炙り出された"と帰結しても良いと言えるでしょう。
何故なら香港の出生率と言うのが(世界的に見ても)ほぼ"最低値"で推移して来ており(2022年度では女性1人当たり0.87人)、このトレンドが今後継続して行ってしまうとそう遠くない未来に香港自体が人口的に"消滅する"という憂き目を見ることになってしまうからです。またこのように出生が殆どない(或いは死亡者が出生を上回る状態が継続する)状態が継続すると、物理的に社会経済を成り立たせるに必要な人口が維持出来ないことに繋がり、これが社会全体にも"負の連鎖"を呼び込むことは必至となってしまうからです。故に政府が次年度以降の財政予算で最大の配分を行っていると言うことなのです。
勿論、日本同様、移民を呼び込むと言うことも視野に入れるのは現実的な手法のひとつであるとは言え、やはりこれは由々しき事態であることに変わりはなく、今後、この部分に関する改善のための"テコ入れ"と言うのは不可避事項であることは間違いありません。
何れにしても、香港政府が見ている将来の絵姿と言うのは、現実的にはかなりの負の要素が"散りばめられている"のがいよいよ顕在的になって参りました。