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中国が香港統治に導入した『国家安全維持法』の影響についての再考

更新日:2023年05月15日

2020年6月30日、中国政府は香港に対して香港の治安維持を目的とした『香港国家安全維持法』を制定・導入しました。当時、この法律の突然の制定には世間的には驚きを持って捉えられた向きがありましたが、(この半年ほど前に発生していた)新型コロナウィルス感染症に対する混乱等もあり、その恐ろしさを真の意味で捉えていた者というのは一部の活動家だけだったのかも知れません。

しかしながらその制定から3年近く経過した今年の3月、「ある事件」が切っ掛けとなって改めてこの法律の持つ本当の力と言うものを(香港市民のみならず)諸外国に在する者たちを震撼させる形になっています。


この「ある事件」と言うのは、どこにでもあるようなプロセスから生まれました。


それは(日本に留学していた)香港人女子学生が身分証の更新の為に里帰りをするべく香港に戻った際、治安当局がこの学生を何故か"国家転覆を企てた者"と認識してそのまま逮捕、その後釈放されはするものの日本に戻る為のパスポートはそのまま没収となってしまったのです。ではこの学生の"容疑"というものは一体何だったのでしょうか?

それは遡ること数年前、単にSNSを通して香港市民の人権を訴えるような投稿を行なっただけと言うものであり、それに対するこの"過剰"と形容しても良い当局の対応と言うのがこの事件の"特殊性"を殊更際立たせてしまったと言う事です。事実として世界はこの個人投稿レベルに対する当局の極端とも言える網掛け具合いに対して衝撃を持って報道する形となりました。


ではこうした程度のレベルすら許容しないこの『香港国家安全維持法』の定義と言うのはそもそもどのようなものなのでしょうか?そして、果たしてそれはどの程度まで香港居民(香港人&外国人の香港居住者など)の生活や活動に影響を及ぼすものなのでしょうか?


この法律の条文は全部で66条から形成されており、その中でポイントと考えられるものは以下のようなものとなっています。


【香港国家安全維持法】(意訳として一部抜粋)

第3条:中央人民政府は香港特別行政区の国家安全に関する責任を負う。

第20条:いかなる人や組織も、国家の分裂や破壊を目的にした行為に実行・参加する場合、武力行使の有無にかかわらず犯罪とする。

第33条3項:他人の犯罪行為の告発、或いは重要な手掛かりを告発する事で減免の対象とする。

第62条:香港特別行政区の現行法が本法律と矛盾する場合、本法律の規定が適用される。


この中で非常に重要な条文と言うのは第3条の条文である中央政府(北京)が香港の安全に対する責任を負うとされている部分と、更にはもともと存在している香港基本法(ベースは英国)より香港国家安全維持法(ベースが中国)を優先すると書かれてある第62条にあると言えます。実際、これが制定された時点で香港は「一国二制度」が前提であった自由と言うものを根底から失い、実質的には「一国一制度」となった瞬間でもありました。


そしてこの法律は香港の域内外を問わないものとして制定されている為、今回、あえなくその「事例」となってしまった上述の香港人女子学生のケースが今後とも起こらないとは限りません。また、条文そのものが非常に曖昧な表現に終始しているところがあるので実務部隊である治安当局の判断次第で如何様にでも解釈され正当化される危うさを含んでいます。故に今後の対策として念頭に置いておく必要があることと言うのはこうしたことに踊らされない言動を普段から心掛けて置くと言うことでしょう。

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