ひと言で表現すると、香港の年末(新正月)から旧正月までの時間と言うのは、まさに魅力的なアジア文化が融合する瞬間です。『新正月』は洗練されたこの近代都市の中で新しい一年を迎える為の準備が整うことを祝うものですし、『旧正月』は中華圏の伝統と家族・親族の結び付きが大切にされる時期となります。
そしてここに住む人達のそんな気持ちを"代弁する"かのように、彼らを取り囲む街も工夫を凝らした装飾によって美しく演出されて行くシーズンであると言えるでしょう。
例えば先ず12月も二週目に入ると"クリスマスを祝う"と言う名目で、街並みには沢山のイルミネーションライトが設置され、これによって香港の街並みは一層美しく"化粧直し"されることになります。このイルミネーションは中環やチムシャーツイと言った都心の中心部を様々な色のライトで照らすことになる為、その雰囲気たるや、まるで街全体が"ディズニーランド"になってしまったかのような錯覚すら憶えてしまう感覚に陥ります。市民達はそんな中、こぞってショッピングに出掛けたりレストランに行ったりと...、この"フェスティブ"なイメージで溢れる街の幻想に酔いしれることになるのです。
そうしたクリスマスの余韻に浸る間もなく年末31日のカウントダウンの日になると、今度はビクトリア・ハーバーからライトニングを使った光のショーや12分間続く盛大な花火ショーが開催され、後は全員でカウントダウン...来るべき新しい一年を祝うイベントが派手に繰り広げられるのです。
このように、香港もクリスマスから『新正月』にかけてのイベントやそれを楽しむ市民達のスタンスと言うのは、他の西洋諸国や我が国日本と似たようなものになる訳ですが、それが今度は『旧正月』の段へとなると、賑やかさや華やかさは同等でも、その根底には"中国の伝統的儀式"であると強く感じられるものへと変化します。具体的には街全体が(中国のナショナルカラーである)赤を中心に色付けされたかのようになり(→広告などの貼りものが影響)、その中には、"お金"を象徴する金色の漢字が浮き上がります。
また、街を歩けば獅子舞のパフォーマンスや伝統的な舞台芸術の披露、(旧正月期間中に食べるとされるお菓子(月餅)や縁起物が売られていたり...まさに春節の雰囲気が街中に漂うのです。
更に香港市民にとってこの『旧正月』と言うのは、家族や親族との絆をより一層強化する"特別な時期"と捉えている点が(我々日本人にとっては)"特異な点"であると定義出来ます。それこそ、一族を構成する老若男女は何れも年一度、そこで一堂に会して時間を過ごし、食事をし、そしてコミュニケーションを取ることを最優先としているのですから、彼らの間に存在する信頼度の強固さには目を見張るものがあります。
このように、香港の『新正月』と『旧正月』は、洗練された現代文化と中国の伝統、そして人々の結び付き具合が見事に調和することによって、ある種"独特の魅力"を纏うことになりました。従ってこの二つを比較し、仮りにどちらが彼ら香港人にとって"より重要なのか?"と質問したとしたら、その賭けは決して成立することはないでしょう。何故ならば、それは彼らが"家族が一番大切である"と言う思いを生き方の中心的価値観として置いているからであり、それを確かめる時期こそが、他ならぬ『旧正月』であるからなのです。