香港と人民元の関係は1997年の香港返還以降、特に21世紀に入ってから急速に進化して参りました。事実、中国本土と香港の経済的な結びつきが強化されて行く中で、人民元の国際化に於いて香港は重要な役割を果たしてきました。何故なら、中国に於ける各都市の中で香港だけが外国のシステムをベースとして発展し、アジアでも突出した金融都市と言うステータスを獲得していたからです。以下は導入から現在に至るまでの発展のポイントを時間の経過と連動させた形で説明をして行くことにします。
1.初期の背景
1997年の香港返還を、香港は「一国二制度」の下で、高度な自治を維持し続けてきました。香港ドルは返還後も引き続き香港の法定通貨として使用されており、通貨ボード制度により米ドルとの固定相場制が維持されました。
しかしながら、経済の発展に伴い、中国との金融・経済的な結びつきが強化されて来たこともあり、その一環として、人民元の取引や決済における当地の役割が徐々に拡大して来るようになりました。
2.人民元オフショア市場の誕生
香港が人民元の国際化において果たす役割が本格的に注目されるようになったのは2004年に中国人民銀行が香港で人民元の個人預金を認めた時に遡ります。これによって香港は人民元のオフショア市場としてその地位を確立し始めることになって行きます。2007年には初の人民元建て債券が香港で発行され、以降、人民元建て金融商品の市場は香港を基軸として急速に拡大して行くことになります。
3.上海・香港のストックコネクトと深圳・香港ストックコネクト
2014年には、上海・香港ストックコネクトが開始され、香港と上海の株式市場が直接結びつく仕組みが整い、これ以降、香港を通じて外国人投資家が中国本土の株式に投資することは可能になりました。続いて2016年には、深圳・香港ストックコネクトが開始され、さらに多くの中国本土株式にアクセスができるようになりました。この制度は結果的に人民元の国際化を推進し、香港が人民元のオフショア取引の拠点として世界から認識されるようになったのです。
4.人民元決済と貿易の中心地としての香港
香港は、中国本土との貿易においても重要な役割を果たしています。人民元決済を促進するため、2010年に香港は人民元建て貿易決済のオフショアセンターとしての地位を確立しました。これにより、香港は中国本土企業や国際企業にとって、人民元建の貿易取引を行うための主要なプラットフォームとなり、更に人民元決済を支援するためのインフラを整備、世界中の金融機関に対して人民元建て取引を容易に行える環境を提供しています。
5.今後の展望
近年、香港の金融市場は人民元の国際化と言う点に於いても非常に重要な位置付けとなって参りました。特に習近平政権の悲願である一大国家プロジェクト「一帯一路」構想に関連した様々な案件やそれに絡む資金調達、人民元建てのグリーンボンドの発行など、新たな分野での成長が期待されています。しかし同時に政治的な緊張や対米を筆頭として発生している国際的な制裁措置等々...、香港の金融センターとしての将来に横たわる不確実な側面も伴っています。しかしながら、それでも尚、香港は中国の経済発展と人民元の国際化と言う両面に於いて、多くを齎す存在であり不可欠なパートナーであり続けることは間違いありません。
以上、5つの視点で香港と人民元の経緯及び関係性について論じて参りました。香港は中国の経済発展と金融のグローバル化に関してこれまでの経緯からも極めて重要な役割を果たして来ており、今後も人民元のオフショア市場の中心地として中国と世界をを繋ぐ金融ハブとしての地位を維持していくことでしょう。