香港は高度な都市化が進んでいる世界的規模の都市のひとつです。限られた土地のスペース故に生じてしまった異常に高い人口密度が恒常的な課題とはなっていますが、そうしたことを筆頭として香港政府は当地の持続可能な発展と国際競争力の向上を目指し、近い将来に向けた様々な都市計画を推進しています。
その中で主要な取り組みを挙げて行くと、インフラの整備、スマートシティー戦略、気候変動への対応、そして中国を含めた"大湾区"構想との連携と言った点が挙げられますが、本稿では、これらの取り組みに対して以下のように要約した形で当地の未来都市計画構想をご紹介することにします。
1. インフラ整備と新都市開発
土地不足を解消し、且つ、居住環境を改善する為、香港政府は大規模な埋立てと新都市の建設計画を進めています。その中核となるのが「北部メトロポリス構想」と「Lantau Tomorrow Vision」です。「北部メトロポリス構想」では、中国本土との国境近くにある比較的大きなスペースを確保することが可能な新界(ニューテリトリー)北部を開発し、ここに住宅地や商業地区を整備することを目指しています。またこの地域は、隣接する深圳市など広東省の都市と連携する形でテクノロジーや製造業の拠点としても発展させて行くものとなります。
一方、「Lantau Tomorrow Vision」計画ではランタオ島周辺の埋め立て地に住宅エリアとビジネスセンターを建設し、長期的な都市拡張に対応します。これらのプロジェクトは住宅不足の緩和と経済の多様化に寄与すると期待されていますが、一方では環境破壊等が懸念されています。
2.スマートシティの推進
香港は「スマートシティー・ブループリント2.0」に基づき、IoT、AI、ビックデータなどを活用した都市運営を目指しています。この計画では、交通、医療、エネルギー管理、行政サービスの効率化を図り、住民の利便性を向上させることが重視されています。例えば、交通面ではスマート交通システムの導入により、渋滞の緩和や公共交通の最適化を図り、ヘルステック分野では遠隔医療の普及を進めたり高齢化社会に対応した医療サービスを提供する計画です。
加えて、電子行政の拡充により、住民がオンラインで行政手続を簡便に行えるようにし、政府と市民の関係をより強化して行くことを目指しています。
3.気候変動への対応と持続可能な都市
香港は立地的に沿岸部に位置する為、気候変動による海面上昇や台風などの自然災害への対応が必要であると考えられているテリトリーです。そんなことも背景にある為、香港政府は2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げており、再生可能エネルギーの利用促進と建築物の省エネルギー化を進めています。更に都市緑化のプロジェクトや持続可能な交通システムの導入、更に電動バスや電動自動車の普及を加速させることで交通部門からのCO2排出を削減することも大きな目標として掲げられています。
4.大湾区構想との連携
香港の未来都市計画は、広東省・マカオとの連携による大湾区構想の一環としても進められています。大湾区は中国南部の11都市で構成され、経済、金融、物流、文化のハブとしての構想を強化する計画であり、香港はこの構想において金融センターとしての知見を活かし、中国本土と世界をつなぐ役割を果たしています。
具体的には、香港が持つ金融、法律サービスを活用して広東省のハイテク産業や製造業と連携することで、相互の発展を促して行くと言うものです。加えて交通インフラの統合して行くことで香港と深圳、マカオなどの都市間の移動がより一層容易になり、経済圏全体の成長が期待されています。
5.課題と展望
香港の未来都市計画には多くの期待が寄せられていますが、同時に課題も存在します。土地開発に伴う環境への影響や、市民の生活コスト上昇への懸念等がその事例として常に挙げられ、スマートシティー推進においては、プライバシー保護や、データ管理の問題も解決が求められると言った具合です。
また、大湾区構想の進展では中国と香港の異なる法制度や政治的課題が障害となる可能性も含んでいます。特に、香港市民が「自由」を求める中で、中央政府の統制強化が市民社会との摩擦を引き起こすリスクも無視できません。
結論
香港の未来都市計画は、インフラの整備、スマートシティーの推進、気候変動への対応、大湾区構想との連携を通じて、持続可能な成長と競争力の向上を目指しています。これらの取り組みは、香港が直面する課題を解決するだけでなく、都市としての新たなビジョンを示すものです。しかしながら、環境保護や市民の権利、政治的安定などの課題に対応することも今後益々重要となると言えます。何れにしても香港が未来に向けて新たな都市像を実現するためには、政府、市民、そして地域社会の協力を今迄以上に図って行くことが不可欠な事でしょう。