香港は歴史的視点からすると過去から現在に於いても常に大国に翻弄される運命にあった都市ですが、それでも地の利を活かすことや金融に長けることでその潜在能力を最大限に発揮し、然るべき価値を世界に提供して参りました。
最近では"中国色"が強くなってしまってはいるものの、やはりアジア諸国に与える影響の大きさと言うのも軽視出来るものではないと言っても良いことでしょう。以下はそんな当地の歴史的背景、経済的特徴、また近年の課題と言った点から現在までの位置と言うものを振り返り、そしてこの「アジアの金融ハブ」の未来が何処にあるのか?と言うことをテーマとして占います。
●歴史的背景と経済的特徴について
香港は19世紀に英国の植民地として発展を遂げることで東西貿易の拠点としての役割を担い、20世紀後半には製造業中心の経済からサービス業への転換に成功しました。1997年の中国返還以降も「一国二制度」の下で自由市場経済が維持され、国際的な金融センターとしての地位と評価を盤石のものとして来たのは既に多くの人々に認められる事実です。
特に香港ドルの自由な交換やシンプルで分かり易い税制、信頼性の高い法制度は、多国籍企業や投資家にとって今でも非常に大きな魅力としてその眼に映っています。
中でも金融業は香港経済の"中核"と言って良く、これは香港のお家芸と評しても間違い要素です。実績として事例を挙げると例えば2023年は香港証券取引所が世界第4位の時価総額であり、そのこと単体で捉えただけでも香港・中国だけでなくアジア市場全体への"ゲートウェイ"として機能している証拠のひとつであると言えます。
また、香港に取って"親"とも言える中国本土の経済成長に伴い、香港は中国本土企業にとって国際市場参入のプラットフォームとしてもその重要性と存在感を拡げて来たのは既承の通りです。
●近年の課題について
しかしながら、近年ではその経済的優位性がある種の課題に直面しているのも確かです。具体的には、近年の政治的な不安定さが投資家心理に影響与えているのは否定しようがなく、2019年の民主化デモやその後の「香港国家安全維持法」の施行は国際社会における香港の自由や自治に疑問を投げ掛ける形となってしまいました。
その結果、一部の外国企業や資本が当地から撤退を決断し、その代わりにシンガポールなど他のアジア金融センターへの移転が促進されるなどの一面もございました。
また、そうしたことに加えて中国本土との経済的依存度の高まりについても議論を呼んでいます。中国は「大湾区構想」を通じて広東省、変更、マカオ一体化した一大経済圏の設立を目指しており、これは香港の成長を支えると言うポジティブな面がある一方で、同時にそれまで培って来た当地の"独自性"と言うものが薄れてしまうと言う懸念も囁かれているのです。
更にこうしたことに加えて新型コロナウィルスのパンデミックが与えた香港経済へのダメージは甚大であり、特に観光業や飲食業と言ったサービス産業の回復には未だに時間を要していると言う点も大きな課題のひとつと言えるかも知れません。
●香港の未来
それでも、香港の持つ強みを活かした発展の可能性はまだまだ十分に残されています。例えば、フィンテック(金融技術)の分野では香港がアジア地域のリーダーとなる潜在力を持っており、具体的には2023年にデジタル人民元やブロックチェーン技術を活用した金融サービスの実証実験が進められることで、国際的な注目を集めるに至りました。
また、中国本土との近接性を活用しつつ国際的な取引や法制度の透明性を保つことで、他の金融センターとの明確な差別化を図ることが当地には可能です。特に、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資の推進やグリーンボンドの発行等、持続可能な金融市場の構築は香港にとって新たな競争力の柱となるでしょう。
以上、結論として香港はこれまでの成功に甘んじることなく、刻一刻と変化する世界経済や地域情勢に対応して行く必要があるのは明らかです。香港が引き続き「アジアの金融ハブ」として機能して行く為には自由市場経済を支える基盤を維持しつつも同時に上述のような新しい分野での競争力を高める取り組みを厳然と行なって行くと言うことに鍵があるかも知れません。